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147.玉ねぎと塩でカレーソースはどう変わるのか? 問題

※新刊『スパイスカレードリル』発売記念・補講レッスン:玉ねぎと塩

カレーに玉ねぎは大事だが、それ以上に塩が大事である。味付けの要となるだけでなく、脱水と脱水による味の凝縮を促進させるから。……ということは、新刊『スパイスカレードリル』にも書いた。

いつ頃からだったか、僕は、カレーを作るときに玉ねぎと塩を一緒に加えるようになった。理由は玉ねぎを早く脱水してうま味を強めるためだ。塩には浸透圧という効果があって、ふった素材の中にある水分を外に出す役割を持っている(そうだ)。玉ねぎがカレーをおいしくする理由のひとつに、脱水による味の凝縮があるから、玉ねぎと塩を一緒に加えると脱水が短時間で進むイメージがある。
とはいえ、このイメージというのは難儀なもので、実感に変わるところまでは至っていない。玉ねぎと一緒に塩を加えるのと加えないので明らかに味が違う! ということではないのだ。理論上はそうだろうからやらないよりはやっておく、くらいの感じだろうか。

実際に僕がレシピ化するときには、「玉ねぎ+塩」と表記するケースはかなり少ない。ゴールデンルール上は、「中心の香り(パウダースパイス)+塩」というセットにしているし、たとえば半量の塩を玉ねぎと一緒に加え、残りを後で……などとすると、「水野のレシピは面倒だ」と言われそう。
そもそも同時に加えたところで加熱時に脱水が促進されるのかどうかちょっと疑問があったから、実験をしてみた。たとえば、野菜の塩もみなんかは、それなりに時間を置けば水分が出てくるが、振ったそばから水分が出るのを見たことはない。加熱中の鍋中に入れたらその時点で各種素材と混ざった上に表面は焼かれ始めるわけで、塩が浸透圧なる効果を発揮する余裕があるかは疑わしい。

玉ねぎに塩をふった状態で、常温で放置してどのくらい水分が出るのかを測ってみる。300gの玉ねぎに8gの塩をふる。調理場の温度は24度、湿度は66%だった。

15分経過……しんなりしている。水は出ていない。
30分経過……大さじ1程度の水分が出てきている。
1時間経過……大さじ1.5程度の水分が出てきている。風味が刺激的で辛い。
2時間経過……水の量はそれほど変わらない。
5時間経過……大さじ2程度の水分が出てきている。
24時間経過……大さじ3強(52.5g)

どうせなら、と思い、そのまま冷蔵庫に入れて丸1日放置してみたが、最終的に玉ねぎから抽出された水分は、大さじ3強程度だった。ポイントは2つ。まず、最初の15分間はほぼ水が出ない点。次に30分以降は、2時間ほどまで置いても出る水の量はそれほど変わらない点。すなわち、「玉ねぎ+塩」を同時に鍋に加えるのが脱水目的だとすれば、あまり意味はないのかもしれない。とはいえ、加熱する30分ほど前に「玉ねぎ+塩」を混ぜ合わせておくことには意味がありそうだ。

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浸透圧や加熱によって玉ねぎを脱水する目的は、味の凝縮以外にもある。溶かしてカレーソースに融合させることだ。とろっとした玉ねぎを口に含んだときのまろやかな風味や舌ざわりは想像がつく人が多いと思う。カレー専門店のカレーでも、長時間煮込んでいるものは、投入しているはずの玉ねぎが跡形もなく消えているケースがよくある。あんな風に玉ねぎが溶けたカレーが僕は好きだ。そして、経験上、玉ねぎは細かく切らない方が溶けやすいのである。科学的に証明できているわけではない。でも、みじん切りやスライスにするよりもくし型切りや四つ割りなどの方がカレーソースにきれいに溶けていく。だからソースを滑らかにしたいカレーを作るときには玉ねぎは大きく切るようになった。

この手法で実際にどのくらい玉ねぎが溶けるのかも実験してみた。
Aを2時間放置し、Bと一緒に鍋に加えてふたをし、中火で30分間、蒸し焼きにする。途中、「水 100ml」を加えた。次にCを加えて混ぜ合わせ、中火のままふたをしてさらに15分加熱する。その後、「湯 200ml」を注いで中火のままさらに15分間煮て完成。

A……「玉ねぎ 300g+塩 8g」
B……「油 大さじ3・にんにく&しょうが(みじん切り)」
C……「鶏もも肉 380g・生トマト(ざく切り) 300g・パウダースパイス 15g」

仕上がったカレーを4つの要素に分解した。「玉ねぎ」と「トマト」と「鶏肉」と「カレーソース」だ。完璧に選り分けるのは大変だが、地道な作業を重ねた結果、玉ねぎはかなりの部分が溶けていたし、わずかに形が残っている玉ねぎも口の中で溶けそうなほど軟らかくなっている。
カレーソースを滑らかでまろやかに仕上げたいカレーの場合、玉ねぎは大きめに切ってあらかじめ塩をまぶしておくのがよさそうだということが改めて分かった。じゃあ、次からのレシピ本でその手法を提案するべきか。んんん、悩むところだなぁ。

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