見出し画像

164.スパイスの香りは何種類に大別できるのか? 問題

新刊の制作が4冊、同時進行している。

すなわち、レシピを量産しなければならない状況にある。「二度と同じカレーを作らない」をモットーに20年以上ライブクッキングをし続けてきたわけだから、新作レシピの開発はお手の物で、延々と生み出し続けることができる。ただ、書籍のためのレシピというのは、全く別のところに生みの苦しみが存在している。自由度が少ないからだ。

書籍は読者のためにある。どんな読者に読んでもらいたいかによって、コンセプトや切り口が変わり、それに沿った形で内容を練り、それを反映させた形でレシピを提案することになる。自分がおいしいと思うカレーを片っ端からレシピとして紹介する、というスタイルもあるけれど、僕の書籍づくりの方法とは違う。僕はあくまでもコンセプトありきで、それをより深く理解してもらったり感じてもらったり、体感してもらうためにレシピを開発するスタイルをとっている。

結果、自由度が狭まるのだけれど、ひとつの顕著な例として使用するスパイスの種類や配合のきゅうくつさがある。その昔は、「たった3つのスパイスで」とか「スパイスは5種」とか、簡単本格系の本をよく出した。さすがに最近は、個人的にそういう段階は脱したために、使用するスパイスの種類についての窮屈さは多少解消されている。とはいえ、それでも好きなようにスパイスを選ぶわけにもいかない。

スパイスは嗜好品だと思っている。香りは千差万別で、好みは十人十色である。誰もが絶賛するような魔法のミックスは存在しないと思うし、もしあり得るとしても僕にはそれを見つけることはできない。だから、何をどう組み合わせても、それはそれで「誰かにとっては抜群においしいが、他の誰かにとってはそこそこ」みたいなところに落ち着くことになる。僕の好きな将棋の世界で「どの手を指しても一局の将棋」という表現があるが、そのままスパイスの世界に持ってきたいくらいだ。

「どの配合で組合わせても一皿のカレー」

今年、最も内容的に重たい新刊は、「スパイスカレー新手法(仮)」という一冊だ。スパイスを使ってカレーを作るときに「そうか、その手が、その考え方があったか!」という手法を紹介することになっている。大枠は固まっていて、レシピ開発も進んでいるが、「新手法」と謳うくらいだから、スパイスの配合についても過去の自分のどの著作にも出していない考え方を提案するつもりでいる。

そこで、僕が普段からスパイスの配合を考えるときにベースにしている香りのキャラクターについての分類を整理している最中だ。大きく5つの分類を考えていて、それに対して大まかにスパイスを当てはめながら、より詳しくわかりやすい表現方法がないかを模索している。とりあえず主要なスパイスを仮置きしてみると、こんな感じ。

D.深みのある香り(Deep)……クミン、クローブ
E.土っぽい香り(Earthy)……ターメリック、ブラックペッパー
R.香ばしい香り(Roasted)……レッドチリ、パプリカ、マスタード
F.華やかな香り(Floral)……カルダモン、コリアンダー、フェンネル
S.甘い香り(Sweet)……シナモン、フェヌグリーク

コーヒーやワインが好きだから、いわゆる各世界にフレーバーホイールみたいなものが存在していて、様々な方法で香りを表現していることはなんとなく頭に入っている。が、ハーブを含むスパイスの世界でこの手のものが整理しにくいのは、フレーバーホイールのカテゴリーの方に「スパイス」が含まれているからだ。たとえばスパイスの香りを使ってワインの香りを表現しているわけだから、そのスパイスの香り自体は何を使えば表現したり分類したりできるのかが難しくなる。

そして、あるスパイスが持つ香りは、多岐にわたるから、スパイス自体をカテゴリー分けするのではなく、5つのカテゴリーに評価値をもうけてスパイスごとに5つの評価を行っていく方が正確に伝えられそうだ。ひとまず、その評価値での評価を終え、全体像が見えてきた。整理してみると、「ターメリック・レッドチリ・コリアンダー」の配合がなぜ優れているのか、「カルダモン・クローブ・シナモン」で何を狙っているのかが明快になった。

この辺りは、さらに分析を深めて書籍で紹介したいと思っている。より精緻化するためには、エッセンシャルオイルの香気成分を比較したりすることが必要になるが、なかなかそこまでは手が回らない。一応、スパイスごとの香気成分が数値化されている分厚い専門書を片手に進めている。

どこまで突き詰めても著者である僕の感応をベースにするしかない上に、最終的に読者の皆さんの嗜好性によるという点は解決できないのだけれど、とにかくこの作業が異様に楽しいことだけは自信を持って言える。この分類の結果は「スパイスカレー新手法(仮)」で出す予定だが、そもそもこの分類の方法論自体を整理してワークショップ化したら、誰もが“自分なりのスパイス感”を手にできそうだから、そちらもいつかやってみたいと思っている。

★毎月届く本格カレーのレシピ付きスパイスセット、AIR SPICEはこちらから。http://www.airspice.jp/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?