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136.カレーに大事なスパイス、トップ3はどれか? 問題

できるだけ少ない種類のスパイスでできるカレーにしてください。

これは、長年、レシピを紹介する機会があるときに避けて通れないリクエストのひとつである。無理もないと思う。スパイスを使ってカレーを作るのはハードルが高い。カレー以外の料理に汎用性の低いスパイスをあれこれ買いそろえないといけないからだ。
使用するスパイスの種類を減らして、カレーの入り口に立ってくれる人が増えるのなら、ぜひ、そうしたい。実際、自著の中でおそらく最も読者の多い『はじめてのスパイスカレー』では、「3スパイス&3ステップで作る」みたいな文句をウリにしている。そのときに3スパイスに選んだのは、「ターメリック、レッドチリ、コリアンダー」である。
この本がよく読まれたから第2弾を出そうという話になった。第2弾で僕が選んだスパイスは、「ターメリック、レッドチリ、クミン」である。

スパイスのブレンドについての講義などで決まって話していることは、「失敗しにくい配合のバランスは、黄色(ターメリック)と赤色(レッドチリ)をちょっとずつ、茶色(コリアンダーかクミン)をどっさり」である。
だから、まあ、このラインナップが妥当な線なのかなと思っている。5種類のスパイスを使ってカレー粉を作るワークショップも昔からたまにやっているが、その場合は、「ターメリック、レッドチリ、クミン、コリアンダー、ガラムマサラ」の順でスパイスを1種類ずつ加えていき、香りの変化を楽しんでもらうことにしている。
ガラムマサラは、ミックススパイスだから、これが入った時点で5種類どころか10種類以上のスパイスが入ってしまうことになるし、ガラムマサラ自体は個人的には自分のカレーにあまり使いたくないスパイスなので置いておくとして、スパイス4種でカレーを作るなら、「ターメリック、レッドチリ、コリアンダー、クミン」をトップ4として異論のない人は多いんじゃないかなぁ、と思う。ちなみに辛いのが苦手な人のためにレッドチリをパプリカで置き換えることも多い。

問題は、「3種の(パウダー)スパイスで作ってください」となったときなのだ。

昨日、新刊の撮影(初日)があった。基本の『カレーの素』を使うレシピのときに、やはりこの問題が出た。3種に何を選ぶべきか結論が出ないまま、本番を迎える。油で玉ねぎ、にんにく、しょうが、トマトを炒めて水分を飛ばし、パウダースパイスを加える直前で火を止めて、現場にいる6人のスタッフに意見を求めることにした。
以下の通り、4人分用のブレンドをして、「どれが一番カレーっぽいのか」を多数決を取ることに。(カッコ内は小さじの分量で、総合計小さじ6)

A.ターメリック(1)+パプリカ(1)+コリアンダー(2)+クミン(2)
B.ターメリック(1)+パプリカ(2)+コリアンダー(3)
C.ターメリック(1)+パプリカ(2)+クミン(3)
D.ターメリック(1)+クミン(2)+コリアンダー(3)
E.パプリカ(1)+クミン(2)+コリアンダー(3)

全員の意見がAで一致した。当たり前かもしれない。Aだけ反則技である。4種類使っているのだから。3種類という条件がある以上、これは除外しなくてはならない。B~Eで再度、多数決をとったところ、最も多いのは、Dだった。日本のカレーは特にターメリックの含有比率が高いから、ターメリックが入るとカレーっぽさを強く感じるのだろう。さらに「茶色をどっさり」の法則でいえば、クミンとコリアンダーがカレーの香りを代表する2トップと言えそうだから、メジャーな意見はDになるのも納得がいく。
一方で僕が好きなのは、Bである。『はじめてのスパイスカレー』の第1弾で選んだ3種類。別に根拠はない。「黄色と赤色をちょっとずつ」混ぜ合わせたときの香りが好きだから。さらに、クミンかコリアンダーかでいえば、コリアンダーの方が好きだから。ただの好みである。
ちなみに僕の出会ってきた南インド出身のシェフは、パウダースパイスは、ほぼこの「ターメリック、レッドチリ、コリアンダー」で決まり、という人が多い。

B~Eのブレンドはどれにしてもカレーの香りにはなると思う。おそらく「カレーだな」と感じる人の数で言えば、BよりもDが多いということになる。僕の好みはメジャーではなくマイナーなのかもしれない。
新刊における「カレーの素」では、反則技を使うことになった。3種類買うのも4種類買うのも同じじゃないか、という少々乱暴(?)な結論をもって、Aのミックスで作ることにしたのだ。だって、BよりもCよりもDよりもEよりも明らかにAが「カレーらしい」と判断されているわけだから。
ハードルを低くして間口を広げることは大事だ。でも、「必要な手間なら、かけないよりもかけたほうが必ずカレーはおいしくなる」と僕は思う。作るカレーによるけれど、スパイスは3種よりも4種の方がおいしい。4種よりも5種の方がおいしい。ホールスパイスを活用したほうがおいしい。
ただカレーに11種類以上のスパイスを使うのは好きじゃないから、たとえば『AIR SPICE』の配合は常に「合計9種か10種」という条件をつけてその中でブレンドの妙を探っている。過去の作品で最も完成度が高いと思っているカレーのひとつ、「カレーの車のオレンジ&フェンネル」は、確かホールとパウダーを合わせて7~8種類のスパイスを配合している。3種類のスパイスを揃えて入り口に立ったら、目の前には4種類以上を使うという別の扉が待っている。開けたら世界は広がると思う。
でも、先に“4種類以上の扉”が見えてしまったら、入り口に立ちたいと思う人の数が減ってしまうということなのだろう。

そういえば、今年もNHK『きょうの料理』でカレーのレシピを紹介させていただくことになりそうだけれど、そのときは、きっとDの3種類を使うことになりそうな気がする。
そういえば、ついでに言えば、去年の料理雑誌『dancyu』スパイスカレー特集でレシピを紹介することになったとき、担当編集者からそれこそ「ハードルを下げて間口を広げるためにカレー粉でお願いしたい」と提案があり、僕は反対した。スパイスでカレーを作りたい人がカレー粉で満足するとは思えなかったからだ。「読者はカレー粉で手間を省きたいんじゃない。スパイスを使ってみたいはずなんです!」と。でも、主張は通らなかった。カレー粉を使ったレシピを紹介した。結果、売れ行きも評判もすこぶるよかったそうだ。
やっぱり僕の感覚は、マイナーなんだなぁ。

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スパイスを通じて刺激的な体験をお届けする「AIR SPICE」代表。カレーの世界をよりオープンにするために、さまざまな情報や考察をせっせと公開していきます。有益かどうかは読者の方々によって違いますが、ゆるくお楽しみください。 http://www.airspice.jp/

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水野仁輔がカレーにまつわるさまざまな問題を取り上げ、実験したり考察したりします。ここには疑問や気づき、発見、逡巡の経過はありますが、正解はありません。真面目な問題も不真面目な問題もあります。お楽しみください。

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