161.カレーリーフ油は香りの救世主になるのか? 問題
救世主になるのか? なんて書くということは、救世主にはならなかったみたいな結論になることを最初から認めているようなものだけれど、それでも書こうと思う。
カレーリーフを油で炒めたときの香りはとっても好きだ。でも一方で、あれをしたら、カレーリーフ本来の香りが損なわれてしまうんじゃないかとも思っている。エッセンシャルオイルの揮発温度は60度台くらいから、とかなり低いようだし、沸点は100度を越えているものの、なんとなく、60度~100度の間で加熱した方がいい香りが生まれそう。
そんな仮説から、カレーリーフ油を3つの温度帯と2つの加熱時間で作り分けてみた。さらに熟成期間をいくつか変えて合計20種類のカレーリーフオイルを準備した。これらで実験を続けていきたいと思っている。
ひとまず、4種のカレーリーフオイルで4種類のカレー(ケララチキン)を作り、試食した。まずは、カレーリーフオイルの作り方はこちら。
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【材料】
米油 150g
ブラックペッパーホール 10g
クミンシード 7.5g
カレーリーフ 3.2g
【作り方】
A. 68度120分湯煎……常温の油にすべてのスパイスを加え、密閉して低温調理器を使い、湯煎した。30分間湯煎と120分間湯煎とで分け、120分の方を使う。
B. 98度120分湯煎……常温の油にすべてのスパイスを加え、密閉して沸騰した状態の湯で湯煎した。30分間湯煎と120分間湯煎とで分け、120分の方を使う。
C. 焙煎98度120分湯煎……カレーリーフ以外の2種スパイスを乾煎りしたのちに常温の油とカレーリーフに加えて沸騰した湯で湯煎。
D. タルカ強160度……油を160度に上がるまで熱してペッパーとクミンを加え、火を止めた直後にカレーリーフを加えてふたをし、バチバチとはじかせてから粗熱を取り、密閉容器に入れた。
ちなみに、「タルカ弱160度」というものも別に用意した。こちらは、油にペッパーとクミンを常温の状態で加えて160度に上がるまで熱し、その後、油ごと容器に移して100度以下になるまで冷まし、常温のカレーリーフを加えた密閉容器に注いで密閉した。こちらは今回の実験には使っていない。
そして、すべてのオイルは、作ってからちょうど1週間の熟成期間が経過した時点で調理をした。
まずは、そのものの香りを試食してみたいと思い、水に溶いた状態で4種を比較する。
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【水割りの感想】
A……香りがいいが少し弱い。カレーリーフを感じる。
B……香りがよく、バランスがいい。
C……全体的に印象が弱い。
D……カレーリーフ感が弱い。
AやBの湯煎したものが、カレーリーフの香りを強く感じた。
作ったのは、ケララチキンカレー。
↓
【材料】
米油 50g
玉ねぎ(粗みじん切り) 235g
塩 15 g
にんにく(すりおろし) 8.25g
しょうが(すりおろし) 13 .75g
カラーピーマン(輪切り) 9g
パウダースパイス
・コリアンダー 12 g
・レッドチリ 4g
・ターメリック 4g
鶏もも肉(ひと口大に切る) 530g
水 300g
ココナッツミルク 150g
トマト(ざく切り) 142g
砂糖 3g
カレーリーフオイル 50g
【作り方】
1. 鍋に油を熱し、玉ねぎと塩を加えて濃いきつね色になるまで炒める。
2. にんにくとしょうがを加えてざっと混ぜ合わせ、カラーピーマンを加えて炒め合わせる。
3. パウダースパイスを加えて炒める。
4. 鶏肉を加えて全体を混ぜ合わせ、表面全体がほんのり色づくまで炒める。
5. 水とココナッツミルクを加えて煮立て、強火で5分ほど煮て、中火にしてさらに5分ほど煮る。
6. トマトと砂糖を加えてさらに3分ほど煮る。
7. カレーリーフオイルを混ぜ合わせ、強火で煮立て中火にして5分ほど煮る。
カレーリーフオイルを仕上げに混ぜ合わせただけの段階で試食した感想はこちら。
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【カレー混ぜ合わせの感想】
A……やわらかい香り。女性的。パウダースパイスなどの香りに負けている印象。
B……柑橘系のさわやかな香りが強め。ブラックペッパーの風味と辛味が残る。
C……香味とのバランスがよく、体験したことのある(安心感のある)香り。
D……香りの印象が最も弱い。
カレーリーフオイルを混ぜ合わせた後に5分ほど煮た完成形での試食結果はこちら。
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【カレー加熱後の感想】
A……塩味を感じやすくなった。加熱前よりも全体的に風味が強まっている。他よりオイル感を感じる。カレーリーフのよさは出ている。
B……風味の印象は全体的に弱まった。後味にブラックペッパーの辛味が残っている。落ち着いた感じだが、ブラックペッパーの存在感の影響か、カレーリーフの香りが弱まった。
C……ライスの甘みがある分、焙煎香がマッチしてバランスがいい。コクが後を引き、味わい的にも最も高評価か。香り単体というより、味と合わさって風味全体が強まった。
D……最もインド料理っぽい味わい。現地で体験した感じに近い。全体の味を香味が押し上げている。苦みも少し感じる。(スパイス本来の)香りの印象が弱い。
4人で試食したが、4人とも微妙に感想は違う。が、総意として、BやCが香り高い(カレーリーフを使った効果がわかりやすい)、という印象だった。
カレーリーフを油で炒めたDのバージョンは、オイルそのものにカレーリーフの香りは弱く、当然、出来上がりにもカレーリーフを感じにくい。とはいえ、個人的な経験上、南インドで食べたカレーに感じる安心感はDがもっともある。カレーリーフが焙煎された香味が立っているからだ。
すなわち、ケララチキンを作りたいならDの手法をとるけれど、インド料理的であることにこだわらず、カレーリーフの香りを存分に感じるカレーを作りたいならBやC(すなわちカレーリーフは油で炒めない)がいいんじゃないか、と感じた。
焙煎というのはときに残酷な手法で、カレーリーフそのものの香りをある部分捨てることで香ばしい別の香りを生み出す行為となる。それを知っていて意図的に焙煎する、もしくはタルカする(油で炒める)という手段を選べるようになるのはカレー作りの幅が広がるんじゃないかと思う。
次は、3週間熟成したカレーリーフオイルで別の実験を試みたいと思う。終わりがないなぁ。
※協力:まるちゃん(ゼロワンカレー)、シャンカール(東京スパイス番長)、ヌマボーイ(NUMABOY)
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