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178.クミンシードだけでカレーは作れるのか? 問題
スパイスでカレーを作るとき、特に初心者に喜ばれるのは、使用するスパイスの種類をできるだけ減らすことだ。「3スパイス、3ステップで作る」と銘打ったレシピ本を出版したのは、今から10年以上前になるのだけれど、いまだに多くの方に読まれている。この「はじめてのスパイスカレー」という本はシリーズで2冊が出て、2冊目は最近、改訂版が出た。
1冊目の「3スパイス」は「ターメリック・レッドチリ・コリアンダー」。
2冊目の「3スパイス」は、「ターメリック・レッドチリ・クミン」だ。
僕はコリアンダーが好きなのと、僕の師匠というべき南インド・タミル出身のシェフが、1年間で250種類の日替わりカレーを作るとき、パウダースパイスは「ターメリック・レッドチリ・コリアンダー」しか使っていなかったことなどから、この2種類が自分の中で特別になった。とはいえ、クミンとコリアンダーはカレーの香りツートップといえる存在で、好みがわかれる。「はじめてのスパイスカレー」で2冊目にクミンを採用したのはその理由からだ。
スパイスのブレンドをするとき、「黄色と赤色をちょっとずつ、茶色をどっさり」とわかりやすく伝えたりしている。すなわちターメリックとレッドチリは量は少ないながらも香りとして欠かせない存在。クミンかコリアンダーかはお好みで、というのが僕の考え。当然「4種類使っていいですよ」と言われたら、「ターメリック・レッドチリ・コリアンダー・クミン」となる。この4種については、僕の発信するものに限らず、もう至る所で唱えられているから、大方異論はないのだと思う。
そもそも、最低限、カレーは何種類のスパイスがあればできるんだろうか?
たとえば、クミンシードだけで何かの料理を作ったとき、それはカレーと言えるのだろうか?
毎月通っているキレドという畑で米ナスがおいしい時期だということで、ベイガンバルタというインド料理を作ることにした。自分のレシピもあるが、あえて、何十年も前の古い洋書のレシピ本を参照してみると、恐ろしくシンプルな材料で作られていることがわかった。
↓
・ギー 150g
・なす 1キロ
・クミンシード 3g
・玉ねぎ 120g
・しょうが 10g
・カシミールチリパウダー 5g
・塩 適量
・トマト 500g
・香菜 適量
そこで、作りながら、実験してみたくなった。材料やスパイスを加えていきながら味見を細かくし、どのタイミングからカレーになるのかを調べてみることにした。
ギーがなく、また、150gも鍋に入れる勇気がなかったため、米油をそれでも100g近く入れ、クミンシードと玉ねぎ、しょうがを炒める。濃いキツネ色になるまで炒めたらカシミールチリをドサッと加え、塩を加えて混ぜ合わせる。この時点で味見。カレーといえばカレーだが、カレーというにはちょっと香りが足りない。
トマトを加えてしっかり水分を飛ばし、焼いて叩いたなすを加えてさらに水分を飛ばす。ここで味見。お、ベイガンバルタになった。が、そもそもベイガンバルタはベイガンバルタという料理であってナスカレーではない。まあそれはともかくカレーの味わいがするかというと、んんん、ちょっと物足りない。仕上げに加える香菜がなかったので、たまたまあったカレーリーフにクミンシードをちょっと増量して油で炒め、加えた。それでもカレーにはならなかった。
要するにこのナス料理に限って言えば、クミンシードだけではカレーにはならないし、レッドチリや香菜を加えてもカレーにはならないということなのだ。ここにターメリックパウダーが少しでも入ったら「カレーだ」と思っただろう。
その昔、ガンジス川に船を出し、イリッシュという高級淡水魚をとりにいったことがある。地元の漁師がどっさりとれた船の上でイリッシュを素揚げにして、調理してくれたのだけれど、あのときに彼が使ったスパイスは、にんにくとターメリック、レッドチリ、グリーンチリだけだった。ごはんと一緒に食べたその料理は、明らかにフィッシュカレーというべきもので、抜群にうまかった。ターメリックとレッドチリのコンビはやっぱり偉大だなぁと思ったものだ。
仕上げに香菜を入れたかったがなくてカレーリーフを入れたが、あそこは個人的には、カスリメティを入れたかった。乾煎りして手で揉んで粉々になったカレーリーフを混ぜ合わせたら、きっとベイガンバルタはナスカレーになっただろう。
ある料理にカレーを感じさせるのに大事な香りは、いくつかあると思う。
↓
・ターメリックとレッドチリにコンビ
・コリアンダーかクミンの香り
・にんにく(意外と大事)
・カスリメティ(なくてもいいけれど割と優秀)
・加熱時のメイラード反応によって生まれる香り
・ごはんと一緒に食べたときに生まれる風味
別にとある料理がカレーになることを喜んでいるわけではない。その料理がカレーなのかカレーじゃないのかは別にどうでもいいことだし、作った人や食べた人が決めることだからだ。
どこからどこまでがカレーなのか? 問題はときどき浮上する。いろんな意見があるし僕には答えはわからないが、少なくとも極私的な見解でいえば、こんな具合いだ。
★作った人がカレーと言えばカレーであり、食べた人がカレーと思えばカレーである。
なんとくだらない見解なことだろう。この見解の先にはいくつかのパターンが待っている。例えばこんな具合い。
★「作った人がカレーと言ってもそれを食べた人がカレーじゃないと思った場合」
★作った人がカレーじゃないと言っているのに、それを食べた人がカレーだと思った場合
まあ、それぞれの立場で自由に解釈すればいいんじゃないかなぁ、と思う。少なくとも今回のベイガンバルタは僕にとってはカレーではないおいしい料理だった。
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