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181.スパイスは浅煎りがいいか、深煎りがいいか? 問題 ~シードスパイス編~

コーヒーは中煎りが好きだ。

このところ流行っている浅煎りは、豆の風味が強くて新鮮ではあるけれど、豆汁感が強くてちょっとだけ苦手。かといって深煎りのコーヒーは単体で飲むにはきつく、こってり甘いスイーツが欲しくなる。僕がコーヒーのおいしさに求めるのは適度な焙煎感だから、中煎りがちょうどいい。すなわち僕は極めて凡庸な人間だということになる。

コーヒーは専門外なので、素人の感想にすぎないけれど、豆の香りを大事にしたければ浅煎り、焙煎香を重んじるなら深煎り、ということになるのだろう。両立させるのはなかなか難しそうだけれど、中煎りならバランスが取れるというイメージがある。

では、カレーのスパイスはどうだろうか? 

たとえばホールスパイスで考えてみる。スパイスは浅煎りがいいのか、深煎りがいいのか。基本的には、カレーの世界は、それが日本であってもインドであっても深煎りが推奨されているように思う。日本のカレー粉は焙煎の後に熟成という特殊なプロセスを重んじるため、またちょっと風味が変わるが、インド料理におけるホールスパイスの調理は基本的に高温の油でシュワシュワとかパチパチとか加熱する。焙煎はかなり強めである。

カレーの世界にコーヒーのように浅煎りブームが来ることはあるのだろうか? 僕は数年前から、個人的にカレーを作るときにはスターターで高温の油で炒めるというプロセスを避けることが多くなった。作りたいカレーによってホールスパイスを加えるタイミングは変えるようになったし、選ぶスパイスごとに変化をつけることも多くなった。特に一部のホールスパイスについては玉ねぎを加えて炒め始めてから途中で加えることにしている。スパイス本来の香りを大事にしようという気持ちから来ている。高温で加熱をしすぎてエッセンシャルオイルの揮発温度をはるかに超えてしまうことを危惧する場合もある。

それなりの効果は出ているが、ガラリと印象が変わるかというとそこまではいかない。カレーの場合、スパイス以外の構成要素が多すぎて、できあがったカレーからスパイスの香り部分だけを抽出して判断するのが難しいからだ。そこで、スパイスティーを作って比べてみることにした。

ティーといっても茶のたぐいではなく、お湯でスパイスを煮出したものである。浅煎りスパイスティー(A)と深煎りスパイスティー(B)を準備し、味比べをする。スパイスは、AIR SPICEの基本のチキン、基本のキーマカレーからメースとレッドチリを取り除いてシードスパイスのみで行った。

【材料】
熱湯 200ml……A
水 200ml……B
油 少々……B
スパイス(半量ずつA、B兼用)
 ・ブラウンマスタードシード 2.5g
 ・クミンシード 2.0g
 ・フェンネルシード 1.2g
 ・カロンジ 1.0g

【作り方】
A. ガラス瓶にスパイスを入れて熱湯を注ぎ、10分ほど置く。
B 小鍋に油を熱し、スパイスを加えて炒め、水を注いで煮立て、ふたをして5分ほど煮る。

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できあがった2種類のスパイスティーは、見事に色味が違っている。Aの浅煎りは澄んだ透明な色。一方、Bの深煎りは茶色く濁っている。油を使っていることもあるかと思うが焙煎によるメイラード反応の色がついている。
鼻を近づけて香りを比べてからそれぞれごくりと飲み、鼻から抜ける香りをチェックする。Aは、それぞれのシードスパイスが豊かに香り、個性がはっきりと感じられるのに対し、Bの方は、焙煎香が強く、個別のスパイスの香りよりも全体的にバランスのとれてなじんだ香りが感じられる。予想通りの結果になったが、予想以上にはっきりと感じる香りに差が出たのは面白かった。なるほど、シードスパイスもコーヒー豆も同じだということだろう。

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コーヒーとカレーが決定的に違うのは、その構成だ。コーヒーにおけるコーヒー豆の重要度とカレーにおけるスパイスの重要度はだいぶ違う。コーヒーはそれそのものの風味を楽しむ飲み物だが、カレーはスパイスをわき役(もしくは構成要素の一つ)として最終的にすべてが調和した味わいを楽しむ料理。だから、今回のスパイスティーのようにスパイスを楽しむなら浅煎りがよさそうだが、カレーとして完成させてしまうと、スパイスそのものの香りがきれいに感じられることの重要度が減ってしまうように思う。

そして、カレーもやはりコーヒーと同じく、焙煎香がある程度あって僕たちが「おいしい」と感じる風味に仕上がる料理だ。浅煎りでは物足りないのかもしれない。とはいえ、深煎りではスパイス感が足りなくなる。やはり、カレーも中煎りがいいということになるのだろうか。

凡庸な人間が到達した凡庸な結論だなぁ。

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