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145.カレーを作っているときの重さは何gなのか? 問題

※新刊『スパイスカレードリル』発売記念・補講レッスン:水


スパイスでカレーを作った人が割とよく突き当たる壁に以下のようなものがある。

・いまいち味気ない仕上がりになる。
・これで正解の味かどうかが不安だ。
・4人分作ったはずなのに足りない。

レシピを開発した僕と、それを見て作った読者との間に最もわかりやすい差が出るケースでもある。原因の多くは、「脱水と加水による味の濃淡」だと思う。このギャップを埋めるために大事なのは、水の扱い方である。
カンタンに言えば、水を増やせば味は薄くなり、水を減らせば味は濃くなる。でも、レシピの落とし穴として、多くの人が「自分はレシピ通りにやっている」という手続きを重視してしまう傾向にあるから、「書いてある通り、300mlの水を入れたから大丈夫」とか「書いてある通り、ふたをして弱火で30分煮たからOK」としてしまう。
「なぜ300mlなのか?」とか「なんのためにふたをして弱火で煮込むのか?」とかを伝えきれないのが原因なのだけれど、どうしてもこの問題が発生してしまう。新刊「スパイスカレードリル」では、「レシピ再現性をできる限り高める」だけでなく、それ以上に大事な「落とし穴にはまらないための技術を伝える」の方に重きを置いた。
ひとつ、意識を強めてもらう手法として、「4人分のカレーで仕上がり800mlをめざしましょう」というレシピを提案している。「1人前200ml」という僕の基準をベースに自分がレシピに沿って作ったカレーがどのくらいの量になるのかについて意識してもらう。僕が作って800mlになったのだから、それよりも多ければ味は薄いし、少なければ濃くなる。
用量を測るときに、ml(ミリリットル)とg(グラム)と2つの方向がある。プロの世界は基本的にすべてをグラムで把握する。のだが、カレー800g(800ml)を鍋ごとスケールに載せると例えば僕の家庭用のスケールだとエラーになってしまう。だから、新刊では1,000ml計量できるボウルやカップに移し替えて測ることにした。

今回は、より正確にカレーに使う材料がどの用量で、加熱の過程でどのように用量が変化するのかを把握するためにグラムで計量してみることにした。
新刊の巻頭で紹介している“チャレンジチキンカレー”を題材に実験してみる。
鶏もも肉を骨付きの鶏手羽元・中・先1羽分で代用し、隠し味のしょう油と砂糖を使わず、代わりに冷蔵庫に残っていた生クリームを少しだけ加えた。
温度表記は、[その時点での鍋中の重さ/鍋投入分を積算した重さ]としている。

【材料・4人分】
紅花油 45g
ホールスパイス 4g
玉ねぎ(スライス) 275g
塩 8g
にんにく(すりおろし) 6g
しょうが(すりおろし) 9g
水A 100g
パウダースパイス 14g
ホールトマト(つぶす) 185g
骨付き鶏肉 560g
水B 300g
生クリーム 30g

【作り方】
1. 鍋に油(45g)とホールスパイス(4g)を入れて強火で熱し、香りが立ってきたら玉ねぎ(275g)と塩(8g)を加えてキツネ色~タヌキ色になるまで炒める。……[113g/332g]
2. にんにく(6g)としょうが(9g)、水A(100g)を加えて水分がきっちり飛ぶまで炒める。……[153g/447g]
3. パウダースパイス(14g)を加えてざっと混ぜ、ホールトマト(185g)を加えて混ぜ、水分が飛ぶまで炒める。……[276g/646g]
4. 鶏肉(560g)を加えて表面全体に鍋中のペースト状の材料が絡んでほんのり色づくまで炒め合わせる。……[798g/1,206g]
5. 水B(300g)を注いで煮立て、ふたをして弱火で30分ほど煮込む。ふたを開けて生クリーム(30g)を加えて混ぜ、さっと煮る。……[980g/1,536g]

チキンカレー重量計測

たとえば、この結果に基づいて言うなら、ざっくりこう捉えておくのもありだ。

4人分のカレーを作るときには、1500gほどの材料を鍋に投入して、その1/3ほどを鍋の外に逃がせばいいんだな。

カレーに使う主な食材は、多かれ少なかれ、水分を含んでいる。加熱すればするほど脱水して味は深まる。それが実際どのくらいなのかを知っておくのは非常に有意義だと思う。僕がそのときの自分の気分で「こんな感じでいこうかな」という加熱を繰り返してチキンカレーを作った結果が上記の用量推移である。
注目すべきは、前半の炒めるプロセス。特に、パウダースパイスを入れる前まで。玉ねぎ、にんにく、しょうがまでで投入した食材の合計は[約450g]で、加熱後は[約150g]になっている。実に全体の2/3[約300g]分もの水分を炒めて飛ばしていることになる。
次に注目すべきは、煮込みによる脱水だ。水Bを加えた時点で[約1,100g]あったはずの鍋中は、煮込み完了後、[約120g]分の水分が抜けてしまう。ふたをして、弱火にしているのに、だ。ただし、これは僕の鍋で僕の思う弱火にしたときの脱水量。他の人が他の鍋で他の弱火で同じく30分煮込んだら、全く違う結果を生む。だから、「レシピ通りにやりました」では本当のゴールテープは切れないのだ。
(すなわち、「大事なのはレシピじゃないんだよ」と本書では言いたいのだけれど、そこまで言うと「レシピを書いてるお前が言うな!」と色んな人に怒られそうなので、こういう場所で小声で書いておく……)

1人分200ml(200g)・4人分800ml(800g)に仕上げるという点と今回を比較してみる。新刊のレシピは、骨なし鶏肉で400g、今回は、骨付き鶏肉で560gということで、160g(1人分あたり40g)分が骨の重さという設計。完成したカレーの総量が980gということは、1人分に換算すると245gとなる。骨が40gだとすれば、今回のトライアルは、1人分あたり205gのカレーができあがったことになる。
さらに、(これは次回の記事に詳しく書くが)塩分量は、8g(1人分あたり2g)なので、カレーにたいして塩分濃度1%という数値は、僕のイメージ通りだ。

いつも同じになるとは限らないし、用量に正確であることが技術の証明になるわけではない。でも、深く考えずに自分のイメージ通りにカレーを作っていって、できあがりの総量が自分のモノサシに近いところに着地できるようになると、アレンジやコントロールの幅は格段に広がると思う。

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