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162.全てのスパイスを仕上げに加えてもいいのか? 問題

僕たちが何かを食べてカレーだと感じるかどうかは、そう感じられるのに必要な香りがその料理に加わっているかどうかだと思う。食べた人がカレーだと感じるのに必要なバランスと量のスパイス(ハーブを含む)が、カレーには必要なのだ。そして、スパイスの香りは、後半に加えた方が食べるときに強く香る。この2件を突き詰めてみると、とある実験を試みたくなる。

カレーと感じるのに必要なスパイスを調理プロセスの最後の最後に混ぜ合わせたら、その瞬間にカレーじゃなかった料理がカレーに変身する可能性はあるのだろうか?

これはずっと前からやってみたかったことだった。ホールのブラックペッパーとクミンシードを使ったカレーリーフオイルが手元にある。ここにパウダースパイスもすべて溶かし混ぜてマサラオイルにした状態で、煮込みの仕上げに混ぜ合わせるのだ。ただのチキンシチューが突然チキンカレーになったら心が躍る。やってみることにした。マサラオイルは3種準備し、香りの加え方は4種ためしてみることにした。

A. パウダースパイスは途中で炒めて、仕上げにパウダースパイスの入らないカレーリーフオイルを混ぜて煮る
B. パウダースパイスをカレーリーフオイルに混ぜ合わせる(加熱はしない)
C. パウダースパイスとカレーリーフオイルに混ぜ合わせ、96度で5分間湯煎し、仕上げに混ぜて煮る
D. パウダースパイスとカレーリーフオイルを混ぜ合わせ、96度で5分間湯煎し、器に盛り付けたシチューにトッピングする

使用したパウダースパイスは、ターメリック、レッドチリ、コリアンダーの3種。このシリーズの過去の実験同様、ケララチキンで試すことにした。

【材料】
米油 50g
玉ねぎ(粗みじん切り) 288g
塩 10g
GG(すりおろし) 35g
ピーマン(薄切り) 31g
鶏もも肉(ひと口大に切る) 418g
水 300g
ココナッツミルク 150g
トマト(ざく切り) 145g
砂糖 3g
カレーリーフオイル 50g
パウダースパイス
 ・コリアンダー 12 g
 ・レッドチリ 4g
 ・ターメリック 4g

【下準備】
カレーリーフ油にパウダースパイスを混ぜ合わせ、マサラオイルにしておく(4種準備)。

【作り方】
1. 鍋に油を熱し、玉ねぎと塩を加えて濃いきつね色になるまで炒める。
2. にんにくとしょうがを加えてざっと混ぜ合わせ、ピーマンを加えて炒め合わせる。
3. 鶏肉を加えて全体を混ぜ合わせ、表面全体がほんのり色づくまで炒める。
4. 水とココナッツミルクを加えて煮立て、強火で5分ほど煮て、中火にしてさらに5分ほど煮る。
5. トマトと砂糖を加えてさらに3分ほど煮る。
6. マサラオイルを混ぜ合わせ、強火で煮立て中火にして3分ほど煮る。Dについては、シチュー150gに対してマサラオイル12gをトッピングした。

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【Aの感想】
知っている風味で、まとまりがいい。
とろみとココナッツ感、チリの辛味を強めに感じる。
バランスがいいが、他に比べると全体的な香りは弱め。

【Bの感想】
少し水っぽく、印象が薄い。
風味が軽く、バラツキがある。

【Cの感想】
チリの辛味を最も強く感じる。脂溶性のカプサイシンが油脂と融合している時間が長いからなのか。
全体的に最もおいしい。

【Dの感想】
混ぜ方の具合いによって不均一な味わいがあり、それがおいしさを生んでいる。
ざらついた舌ざわりが少し気になるが、食べているうちに気にならなくなる。

今回の4種類のカレーのうち、Cが最もおいしいと実感したことの意義は僕にとっては大きいものだ。すなわち、はじめの香り(ホールスパイス)も中心の香り(パウダースパイス)も仕上げの香り(ハーブ)をそれぞれのタイミングで加えるよりも、すべての香りを仕上がり直前に加えた方がおいしいと感じたわけだから。
だとすると、スパイスを鍋に投入すべきタイミングを抜本的に考え直すことにも価値があるということになる。

さらに言えば、一緒に実験をしたメンバーの総意ではないが、僕自身が大きな可能性を感じたのは、Dだった。その可能性を正確に説明するのは難しい。が、これまでのカレーとは全く違うスタイルを確立できるかもしれないからだ。
まるでカレーとは思えない料理をごはんと一緒に器に盛り、食べる人がマサラオイルを混ぜることでカレーが出来上がる。しかも、そのオイルの混ぜ加減で少しずつ味わいが変わっていく。Dを食べ、独り静かに興奮した。この方向の実験はまだ続けていきたい。

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※協力:まるちゃん(ゼロワンカレー)、シャンカール(東京スパイス番長)、ヌマボーイ(NUMA BOY)

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