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143.カレーを作っているときの温度は何度なのか? 問題

※新刊『スパイスカレードリル』発売記念・補講レッスン

火加減によって鍋中の加熱をコントロールすることが大事だ、と新刊で書いた。そして、これが「カレーを作る上で最も仕上がりを左右する」とも書いている。一緒に研究会をしているシェフたちと話していると「火入れ」という言葉が飛び交う。加熱コントロールの要素のひとつが、温度だ。
カレーを作るときに色んな材料を加えては炒めたり煮たりしている。そのとき、鍋中の温度はいったい何度くらいなんだろうか? ずっと気になっていたけれど確認せずにいたから、この機会に計測してみることにした。

新刊の巻頭で紹介している“チャレンジチキンカレー”を題材に実験してみる。
【材料】
植物油 大さじ3
ホールスパイス
 ・クミンシード 小さじ1
にんにく(みじん切り) 1片
しょうが(みじん切り) 1片
玉ねぎ(くし形切り) 中1個(250g)
鶏もも肉(ひと口大に切る) 400g
パウダースパイス
 ・コリアンダー 大さじ1
 ・ターメリック 小さじ1
 ・レッドチリ 小さじ1
塩 小さじ1弱
砂糖 小さじ1/2
しょう油 大さじ1
トマト(ざく切り) 大1個(250g)
水 300ml
フレッシュスパイス
 ・香菜(ざく切り) 1/4カップ

作り方(プロセス)も手順に関しては、巻頭のものを踏襲し、少し、アレンジして作ってみる。都度、温度を計測しながら進めた。温度の計測は時間によって変化するし、鍋中のどの場所かによっても変わるので、複数はかっておよその平均を出している。

【作り方】
1. 鍋に油を中火で熱し、ホールスパイスを加えて炒める。クミンシードがシュワシュワと泡立ち鍋中を泳ぎ始めたあたりで計測……[中火/142℃]
2. にんにくとしょうがを加えてほんのり色づくまで中火で炒める。色づき始めたあたりで計測……[中火/110℃]
3. 玉ねぎと塩を加えて強火にし、ふたをして蒸し焼きにする。玉ねぎの表面がこんがりし始めたあたりで計測……[強火/115℃]
4. 鶏肉を加えて強火で表面が色づくまで炒める。色づいた当たりで計測……[強火/108℃]
5. 火を弱めてパウダースパイスを加えてさっと炒める。スパイスが全体になじんだあたりで計測……[弱火/93℃]
6. トマトを加えて中火にし、ふたをして蒸し煮にする。トマトが煮崩れてきたあたりで計測……[中火/99℃] ふたをあけてざっとかき混ぜたあたりで再度計測……[中火/89℃]
7. 水を注ぎ、強火にして煮立て、煮込む。水を注いで全体を混ぜ合わせたあたりで計測……[中火/65℃] グツグツ煮立ったあたりで計測……[強火/98℃] 極弱火にして表面がふつふつしたあたりで計測……[95℃] ふたをして中火でグツグツ煮ているあたりで計測……[中火/99℃] 煮込み中の肉の中を計測……[93℃]
8. 香菜を混ぜ合わせ、火を止める。5分経過あたりで計測……[90℃] 15分経過あたりで計測……[82℃] 30分経過あたりで計測……[75℃]

非常に興味深い結果になった。水よりも油の方が熱伝導率が高いため、前半は温度が高くなる。鶏肉やトマト、水などの水分が入った後の加熱では温度は100℃を越えない。まあ、それは想像の通りなのだけれど、90℃近い鍋中に300mlの水を加えた直後が65℃。いわゆる肉の低音調理に適した温度が60℃前後だとすると、肉に味を残しながら肉質を気にしながら煮込むなら、加熱せずに煮込む(!?)のがいいのかもしれない。とはいえ、それでは時間がかかりすぎる。
「前半に強火で炒め、後半に弱火で煮込む」のがいいと考えてきたが、温度だけに関して言えば、強火で弱火でも大差ないことになる。煮立っている状態が99℃、極弱火の状態が95℃、そのときの肉の中の温度は93℃なのだから。新刊のチャレンジカレーでは、最初から最後までずっと強火のまま15分でおいしくできるチキンカレーにチャレンジしている。あれが抜群にうまくなるのにも根拠はあるということだろう。

鍋中を支配しているのが油分なのか水分なのかで温度は違う。そこにどんな食材を加えるかによったり、加えてから加熱を進める間にも温度は変わっていく。前半が100℃以上、後半が100℃以下(100℃近く)という大きな流れはあるにせよ、部分的にいえば、食材の表面と中面は温度が違うし、反応も違う。
だから、本書の「はじめに」でも書いた通り、「鍋中をよく観察すること」が大事になる。今そこで何が起こっているのか。火加減や鍋中の過熱状態は、温度に与える影響以上に、食材の変化に与える影響が大きいんだと思った。

ちなみに僕は、カレーの出来立てよりも、完成後にふたをして30分ほど置いた状態が好きなのだけれど、30分置いてもおんでゃ、15℃しか下がらない。ちょうど食べやすい温かさになる。調理時のキッチンの温度は26℃、湿度は50%だった。指で触ってぬるいくらいまで粗熱を取った状態で計測したら、39℃。冷蔵庫に入れてひと晩たって計測したら、6℃だった。これからの季節は、短い時間でもこまめに「粗熱を取って冷蔵保存」をしなくてはならない。

 

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