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174.ビリヤニを作るのに最適な米はどれなのか? 問題

ワインについて友人が語ったことがずっと頭に残っている。

「結局、ワインは、値段が高ければ高いほどおいしいんだと思う」

彼女は某著名料理雑誌で創刊からワインを担当しまくっている。仕事を通して感じた素直な感想だという。「もちろん、結論づけられないし、例外もあるけれど」と言ったうえで、こう付け加えた。

「一度、いいワインの味を知ってしまうと、元には戻れない」

僕自身もたとえば、お酒ならフランスのワインやスコットランドのウィスキーを好んで飲んでいるが、似たような意見を持っている。

高価なほどいい、という意見は料理の世界でたまに耳にする。これほど夢のない話はない。聴いた人をある意味、ガッカリさせる発言である。
……と書いておいて、さて、ビリヤニの話である。ビリヤニに最適なバスマティ米はいったいどんな銘柄なのだろうか? ワインやモルトウィスキーほど種類はないのだから、作ってみればいい。
今回、この実験を発案してくれたのは、近いうちに『ビリヤニ大澤』という専門店を開くことになっている大澤くん。彼が都内を車で回り、19種類のバスマティ米をかき集めてくれた。現在、彼の運営する『ビリヤニハウス』で早速つくってみることに。

集合バスマティ

共通のマトングレービーを準備し、各米を同量ずつ準備し、ビリヤニを炊く。カセットコンロをずらり9台並べ、同じ鍋を乗せて自転車操業状態で取り組む。キッチンタイマーがあちこちでピピピとやかましい。作っては食べ、写真を撮り、を繰り返し、1日じゅうビリヤニと向き合った。
調理条件は、ざっくりと以下の通り。

・米の量 300g
・グレービーの量 500g
・米を浸水する 40分
・米を茹でる 5分
・ビリヤニを炊く(パッキ式) 20分

実験ビリヤニ

ひとつずつをレポートする余裕はないため、結果をかいつまんで整理してレポートしたい。
試食時の判断項目は、以下の通り。

・仕上がりの香り
・米の状態 フワフワ度
・米の状態 パラパラ度
・味の好み(シミシミ度含む)
・自由回答で感想

合体バスマティ

合体ビリヤニ

合計11人でブライド形式(米のブランドを確認せずに)試食を行い、結果を集計するとベスト5はこうなった。

1位:Kohinoor EXTRA FLAVOUR BASMATI RICE
2位:INDIA GATE BASMATI RICE Premium
3位:LAL QILLA Traditional SPECIAL OLD MALAI
4位:LAL QILLA RICE (加工不明・推定:マジェスティック?)
5位:Banoful KALIJEERA AROMATIC RICE

意見が大きく割れることはなかったため、点数を集計した結果を見てもそれほど試食したメンバーには違和感がない。そういう意味では、それなりに信頼していい結果なのかもしれない。ちなみに水野個人のベスト5はこちら。

1位:LAL QILLA Traditional SPECIAL OLD MALAI
2位:LAL QILLA RICE (加工不明・推定:マジェスティック?)
2位:Banoful KALIJEERA AROMATIC RICE
4位:INDIA GATE BASMATI RICE Premium
5位:Guard SUPREME BASMATI NATURE'S FINEST EXTRA LONG

こちらも全体集計とそれほど大きな差はない。

累計ビリヤニ

ラルキラ、強し! カリジーラは予想に反して香り高くよかった。インディアゲートも悪くないのね。そして、コヒノールがまさかの高評価!? とそんなとこだろうか。

この実験を通して実感したのは、たしかに米の銘柄によって炊きあがりの味わいはだいぶ変わる、ということ。でも、実はそれ以上に、炊き具合(炊きあがりの成功度)による味の差の方が影響があるということだった。要するに米はどうあれ、上手に炊けたビリヤニがおいしい、ということ。同じ材料分量、同条件で炊いたとはいえ、全19種が同じ炊きあがりになるわけではないからだ。
そもそもバスマティ米の銘柄ごとの特徴を正確に知ったうえでビリヤニへの影響を見るなら、米だけを炊いて比較し、さらにビリヤニにして比較するのがいいのかもしれない。ただ、正直言うと、米自体の銘柄ごとの味わいの差に個人的にはそこまで興味がわかなかったし、「わざわざビリヤニを炊いて比べる」という気の遠くなる作業に対してやる気が沸いたので、今回のトライアルとしてはこれでよしとしよう。

で、上位に選ばれた米を改めて見てみると、まあ、値段の高いものが順当に選ばれている。仮に僕が「結論だけを教えてください」と誰かに言われたら、「ラルキラ(LAL QILLA)を買っておけばいいんじゃないっすか?」と答えるだろう。ラルキラは他の米の2倍ほどの値段がする高級米である。

合体ラルキラ

なあんだ、結局、ワインと一緒じゃないか。まあ、そうとも言えるだろう。ただ、ワインやウイスキーよりも少しだけ夢がある。なぜなら、ビリヤニの場合は「米の質はもとより、炊き方が味わいを左右する」という部分があるのだから。そこそこの米でも自分の技術や実力を上げれば応えてくれるんだと思えば、やる気が出るじゃないか。

そして、この手の実験をしたときに必ず思うことがある。それは、どんなに詳細にレポートしてもあの場で僕が感じたこと、得たものを表現しつくすことはできない、というジレンマだ。きっと僕に限らず、あの場にいた人たちにしか実感できない、「ああ、こういうことか!」という数々の発見があったはずだ。あの1日で僕たちのビリヤニ偏差値は急激に上がったと思う。だから、もし、このテーマに興味のある人がいたら、ぜひ、自分でやってみてほしい。やった人にしか得られないものがある。それも夢があっていいと思う。

実験ビリヤニ05

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