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150.牛すじを煮込んだらいつからカレーになるのか? 問題

2月にパキスタン、インドでニハリ(ナハーリー)というムスリムの煮込み料理を取材して以来、自分の中でカレーにおける煮込みの概念が変わりつつある。煮込みについて考え続け、煮込みを最大限にフィーチャーした“ハンズオフカレー”という手法を生み出し、その後も煮込みによるカレー調理に取り組んでいる。

そんな中、ちょっと前に手掛けた「COOL INDIA」というシェフによる冷凍カレープロジェクトのときに食べたカレーを思い出した。神宮前「HENDRIX」の若林さんが作った牛すじカレー。あのカレーのレシピを取材して整理したときに、「これは煮込みが主役のカレー」だと思ったのだ。そこで、ハンズオフカレーにアレンジし、作ってみることにした。

【材料】
植物油 大さじ3
ホールスパイス
・クミンシード 小さじ1
にんにく(みじん切り) 1片
しょうが(みじん切り) 1片
玉ねぎ(スライス) 中1個(250g)
トマト(ざく切り) 中1個(200g)
パウダースパイス
 ・クミン 大さじ1
 ・コリアンダー 小さじ2
 ・ターメリック 小さじ1
 ・パプリカ 小さじ1
 ・ブラックペッパー 小さじ1
 ・ガラムマサラ 小さじ1
塩 小さじ1強
牛すじ肉 400g
茹で汁 300ml

【作り方】
鍋に牛すじ肉と湯を熱し、アクを取りながら10分ほど茹でてざるに上げておく。茹で汁は取っておく。
鍋にすべての材料を加えてふたをして強火にかけ、煮立ったら弱火にして煮込む。30分ごとに味見をする。60分経過で100mlのゆで汁(分量外)を追加。100分経過で100mlのゆで汁(分量外)を追加。120分で完成。

ポイントは、「煮込みを続けた場合、いつからカレーの味が生まれるのか?」。30分ごとに味見をしてみる。

【30分経過】
玉ねぎもトマトも形は残っている。あっさりとした味わいで、すでにカレーになっている。こういうカレーが好きな人は好きかも。僕はまだ物足りない。もう少しこなれて完成度を高めたい。

【60分経過】
玉ねぎは残っているが、トマトはほぼ形がない。蒸気が抜けた分、とろみも少し強まった。味も深まったが、まだ少しスパイスの粉っぽさが気になる。

【90分経過】
全体がかなりこなれている。ソースの見た目がよく肉も非常に軟らかく、完成と判断していい感じ。だが、ラスト30分、煮込んでみる。

【120分経過】
普通に食べたらすごくおいしいカレーになっている。あれがこうなるか、という驚き。ただ、後味にスパイスの粉っぽさが気になる。でもこれが気になる人はほとんどいないだろうなぁ。やっぱりスパイスの投入タイミングとか加熱方法って大事だな。逆にそこだけうまくできれば、この手法でできちゃう。調理は何もしていない。火にかけただけ。すごい。出汁のうま味が効いているから牛すじ肉という部位のおかげか。

牛すじだからそれなりの煮込み時間が必要、という理由もあるけれど、鍋中全体の味わいが調和するまでに60分間、スパイスの粉っぽさが完全に抜けるまでには90分ほどかかる結果になった。
何度も作っているチキンカレーのハンズオフなら、30分で鍋中はスパイスも含めて調和する。この差はなんだろうか。いずれにしても「時間が解決してくれる」ということが、カレー調理においてもあるんだな、と改めて感じた。その昔、「新宿中村屋」の二宮総料理長とおでん屋の牛すじの煮込みという調理が素材に与える影響について見解を話してもらったことを思い出した。カレーを煮込んでいる間に鍋の中で起こっている変化について、もっと詳しく知る方法はないのだろうか……。


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