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187.玉ねぎを炒める前に煮ると何が起こるのか? 問題

いつからだろうか。僕は玉ねぎを四つ割りやくし形切りなどに大きく切って蒸し煮してから蒸し焼きにする(炒める)のを好むようになった。最初にやり始めたのは、もう5年以上前のことだと思う。具体的にそれを手法としてアウトプットしたのは、記憶している限りでは、2018年に出版した「わたしだけのおいしいカレーを作るために」というエッセイだったかもしれない。さまざまな切り方や炒め方がある中で、それがいちばんおいしいと感じたから気に入って多用するようになった。
が、問題は、「他の切り方をしたときにこの加熱でやっていみよう」と一度も考えなかったことだ。

もういろんなところに書いている気がするけれど、玉ねぎを加熱する主な目的は2つある。「脱水」と「メイラード反応」。生の玉ねぎを使ってこの2つの目的を果たそうとするとき、ちょっと不都合が生じる。同時進行してくれないのだ。脱水よりもメイラード反応が先に進行する。生の玉ねぎは硬いから、水分が抜けにくい。ところが鍋の中は油で温度が上がっているから表面からメイラード反応をおこしていく。
脱水とメイラード反応のバランスをコントロールするために切り方を変えたり炒め方を変えたりするのだけれど、それを意識してできるようになるためにはかなりの技術が必要になる。だから、自在にコントロールするというよりは、レシピと完成のカレーを紐づけるというやり方で目的を果たしているケースが多い。

でも、僕は、自由自在にコントロールできるようになりたいのだ。そのために技術を磨いてはいるつもりだけれど、あまり実験的な気持ちがないまま何かしらのカレーを作ろうとすると、「大きく切って蒸し煮からスタート」と勝手に手が動いてしまう。それは、「その味が好きだから」という理由のほかに「コントロールがしやすいから」という理由もある。そのことをここ1ヶ月ほどなんとなく考えていた。そのときにハッとしたのだ。

他の切り方をしたときも、炒める前に煮ればいいんじゃないのか!?

なんでこんなことに気がつかなかったのだろう。ウッカリもいいところだ。
「切り方」と「炒め方」は別のフェーズである。切り方の違いによって味わいは変わる。でもそれは炒め方によっても変わってしまうのだ。ややこしい。

切り方……A.みじん切り / B.スライス
炒め方……1.強火 / 2.弱火

としただけでも、「A1、A2、B1、B2」と4種の違いが出てしまうのに、炒め方にも「時間」とか「油や玉ねぎの量」とか「かき混ぜる頻度」とか、さらにいくらでも変動要素があって、できあがりの種類は無数になってしまう。加熱方法を「炒める」に限ってですらこうだから、キリがない。こんな状況で、脱水とメイラード反応のバランスをコントロールしようだなんて大変なことだ(まあ、そこに取り組んでクリアする喜びもあるのだけれど)。

話がそれたが、何年もウッカリ考えずにいたことを実際にやってみることにした。要するに玉ねぎをどんな切り方をしようとすべて「油で炒める前に水で煮る」のだ。

●玉ねぎ煮炒めカレー
【材料】
玉ねぎ 250g
水 100g
塩 7g
油 30g
GG 15g +水 適量
パウダースパイス 25g
トマトピューレ 30g
湯 300g
鶏手羽元 400g

【作り方】
1. 玉ねぎと塩、水を加えてふたをして強火で5分煮る。
2. ふたをあけて強火のまま脱水(1分~1分30秒)する。
3. 油を加えてキツネ色(E.F.G.Hはタヌキ色)になるまで炒める。強火で5分。
4. GGジュースを加えて脱水する。
5. パウダースパイスとトマトピューレ、鶏肉を加えて炒め、水を注いで煮立て、ふたをして弱火で30分煮込む。

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全部で8通りの切り方と炒め方を試してみる。結果は、やる前からわかっていた。どの切り方の場合も、脱水とメイラード反応が同じペースで進行したのだ。炒める前に煮ることによって玉ねぎを脱水しやすい状態にしておく。それによって、油を加えたときに脱水とメイラード反応は同時にスタートを切れることになるからだ。
ざっくりの感覚で言えば、「20%脱水でイタチ色(メイラード反応)」、「40%脱水でキツネ色」、「60%脱水でタヌキ色」、「80%脱水でヒグマ色」というようにバランスよく進む。たとえば意図的に「20%脱水なのにヒグマ色」とか「80%脱水なのにイタチ色」みたいなカレーを作りたいときもあるのだけれど、それはかなりマニアックな狙いと技術が必要になる。その点、この手法ならそれほど技術的な差に影響されることなく、玉ねぎ炒めを行えるだろう。

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ウッカリ発見したこの手法は、これから精緻化していき、次の新刊でまとめるつもりだ。また、この実験で、実は、本来の目的とは別の結果もウッカリ出てしまったのだけれど、それは次回の記事で書こうと思う。

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