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166.ホワイトカレーはどこまで白ければいいのか? 問題

カレーとは黄色い食べ物であり、茶色い食べ物である。

それなのに、白くてカレーというんだから、驚いてしまう。まあ、インドにもタイにも緑色をしてカレーと言われている料理があるのだから、暖色系を離れても驚く人は少ないのだろうけれど、白は、ねぇ。白いということは、スパイスの色がつかないわけだから、カレーになるイメージがわかないというのが普通の感覚だ。

インドにはチキンシチューという料理があって、あれをカレーというときっといろんな人から怒られるんだろうけれど、スパイスの香りをまとった鶏肉料理であって、食べた人によって、「ああ、これはカレーだな」と思う人もいるはずだ。

何をくどくど言っているかというと、ホワイトカレーの許容範囲がわからなくなってしまったのだ。どこまでをホワイトカレーと言って許されるのか、どこから先がホワイトカレーだと言ったら許されなくなるのか。

AIR SPICE 1月のテーマは、ホワイトチキンカレーだ。今夜がコース購入最終日、明日、朝から発送作業を行うことになっている。AIR SPICEでは、できる限り鮮度のいい状態でスパイスをお届けしたいという思いから、少々ハラハラするものの、発送直前にインドから空輸でスパイスが届く仕組みを取っている。今回のスパイスも1週間ほど前に到着し、それから梱包作業に取り掛かることになった。

そこで、ミックスされたパウダースパイスの袋を見て愕然とした。なんだか、グレーカラーなのである。毎回、僕がインドへグラム単位で指定した配合を送り、それを元に現地でミックスして密閉した状態で日本に送られてくる。僕の指定した配合では、こんな色になるはずが、ない。

急いで袋を開けて香りをかいでみると、香りはイメージ通り。むしろ、イメージしていたよりもいいくらいだ。なのに、なぜ? 混乱してインドへ問い合わせをした。混乱した理由はふたつ。僕の指定した配合であの色になる理由がわからない。もうひとつは、このまま購入者に送ってしまったら、受け取った人たちが「!?」となり、問い合わせが来るかもしれない。何と言っても、今月のテーマが、“ホワイト”チキンカレーなのである。

「作ってみたんですが、白くなりません」

容易に想像できる問い合わせだ。困ったな……。

ともかく、届ける前に自分で試作をしてみることにした。

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このカレーは、割と簡単にできる。バサッと鍋中にパウダースパイスを加えた段階では、手が止まるほど深い色味。これが白いカレーになるとは思えない。ドキドキしながら作り続けると、結果、無事に(?)ホワイトチキンカレーはできあがった。なんと、白いのである! 


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「やった、ホワイトだ!」

ほっと安堵しながら、たまたま居合わせた7名の男女にアンケートを取ってみる。

「これ、白い?」

結果、「白くない」が4名。「白くなくもない」が3名。白くないのか。鍋が黒いからカレーソースが白く見えているのかもしれない。心無い人がひとり、「白い器に盛ってみてくださいよ~」「ほら~」と厳しいお言葉。このカレーがホワイトチキンカレーという名前で許されるかどうかは作ってくれた方の判断に委ねることとしよう。

10年以上前(かな?)に出版した『カレーの教科書』という本で、システムカレー学という考え方を提案したことがある。ちょっと説明が難しいので割愛するが、システムカレーの考え方をわかりやすく理解する手法の一つにデザインカレーがある。

自分のイメージした色味にカレーソースをコントロールするために、材料のチョイスや加熱の方法をデザインするという、逆算レシピ手法である。要するにデザインカレーの手法に従えば、カレーの色味を自由自在に操れる。AIR SPICEでは、12ヶ月のコースで届くカレーソースの色味を12色になるようにレシピ開発をしている。だからホワイトカレーといえば、ホワイトになるように材料もスパイスの配合も選んでいるのだ。

具体的な方法でいえば、色の付きやすいパウダースパイスを使わず、色の付きにくいホールスパイスでカレーを作り、ココナッツミルクや乳製品などを加えていけば白っぽいカレーになる。が、今回は、あえてパウダースパイスも使ったうえで白いカレーを目指した。
カルダモン、ホワイトペッパー、フェヌグリークシードなどの色の薄いパウダースパイスを中心にして、ターメリックやパプリカ、レッドチリなどの黄色や赤、クミンやガラムマサラ、クローブなどの濃い茶色は使わないようにする。

そんなふうにしているから、パウダースパイスのミックス自体に深い色味がつくこと自体がおかしい。

インドから返事があった。原因は、僕がちょっとだけ風味付けに配合したチャットマサラ(ミックススパイス)にあった。僕がお願いしているインドの工房では主に2種類のチャットマサラを使っている。僕のイメージでは明るい色のチャットマサラのはずだったが、インド側で“ヒンディーチャット”と呼んでいる濃い色味(香りもすばらしい)のチャットマサラを配合していたのだ。

そうか、チャットマサラの色だったのか。結果、香りはイメージ通りでいいのに色味はイメージと違うミックスが届くことになった。せっかくの機会なので、そのヒンディーチャットの配合スパイスをここで公開しておきたいと思う。

・ ローストクミン
・ ローストコリアンダー
・ ブラックペッパー
・ マンゴーパウダー
・ ヒマラヤピンクソルト
・ キャラウェイシード
・ ドライミントリーフ
・ ローストレッドチリ

クミン、コリアンダー、レッドチリがローストだもんなぁ。そりゃあ香りはいいよなぁ、そりゃあ色は深まるよなぁ。

ま、ともかく、おいしくはできる。ホワイトと言っていいかどうかは判断がつかない。僕にはホワイトチキンカレーに見える。明日、発送だ。目下の悩みは、「お詫び」のメールマガジンを配信するかどうか、である。

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★毎月届く本格カレーのレシピ付きスパイスセット、AIR SPICEはこちらから。http://www.airspice.jp/



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