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209.スパイスの香りはどう体感すればいいのか? 問題

新刊『スパイスを極める』の第1章では、いきなり「5つのトレーニング」によって、スパイスを自分のものにできるよう、さまざまな手法を整理している。
第2章では、スパイスの香りを体感するための各種ゲームを取りそろえた。その一部を紹介したい。

クミンシードをどこまで炒めたらいいんですか?

カレーを作っていて、スパイスに関してこれまでにうけた質問の中で、かなり上位にくるのがこれである。最初に油でクミンシードを炒める、みたいなプロセスがある場合、薄茶色をしたクミンシードが何色になるまで炒めればいいのか、わからない。
この手の質問は常に正解があるわけではなく、「どうしたいのかによってどうするのかを決める」ということに尽きるのだけれど、そういうことを言い始めると「また水野がめんどうくさいことを……」となるので、本書では、細かく解説している。

スパイスから生まれる香りが加熱によってどう変化するのか、をわかりやすく整理して図式化しているから、それがわかりやすいと思う。
スパイスの香りは、そのスパイスが持つ香気成分によるものだ。香気成分は温度上昇によって揮発する。常温でも揮発は始まっているが、各種香気成分が沸点に達するまでは、香りを出し続けると考えていい。
クミンシードでいえば、黒く焦げる直前までは香りが出続ける。ところが、厄介なのは、感じられる香りが途中で変化することだ。それを僕は「香りの転換点」と呼んでいる。スパイスの香りには以下の3通りがある。

A.    スパイスそのものの香り
B.    スパイスという固体(の主に表面)を使って生まれる香味(香ばしい香り)
C.    炭化(もしくはその直前の燻煙)したときに生まれるスモーキーな香り

順序でいえば、加熱の進行により「A→B→C」の順で香りを感じる。
香りの転換点は、Aだけでなく、Bが出始めた状態をいう。
香りの炭化点は、Cが出始めた状態をいう。

薄茶色のクミンシードは、Aを出しながらジワジワと色づき、茶色くなったあたりからBがではじめ、焦げ茶色になったころにはAよりもBが強まっている。黒くなり始めたころからCが生まれる。だから、作りたい料理(またはカレー)によってどの香りを尊重するかによって、「どこまで炒めたらいいか」は変わるのだ。

こんな複雑な話ばかり書いていると読者に飽きられること恐れて、本書では、具体的に興味を持ってもらえそうなエッセンスも入れた。
熟練のインド料理シェフにかつて取材した内容の回答例だ。これは面白いと思う。

Q. スパイスを5種類しか使えないとしたら、何を選びますか?

僕はこの問いを「無人島スパイス」と呼んでいて、色んなシェフに尋ねている。無粋な質問ではあるのだけれど、腕利きのシェフであればあるほど、こういう質問に対しては素直に答えてくれる気がする。
もし、無人島で生活することになったら、どのスパイスを持っていくか。本書では6人の「回答」と「そのココロは?」を尋ねているが、回答だけを紹介したいと思う。

●スワミシェフの場合
カイエンペッパー、ターメリック、クローブ、シナモン、カルダモン。

●フセインシェフの場合
レッドチリ、コリアンダー、ターメリック。他のスパイスはなくてもOK。

●アロラシェフの場合
オニオンシード、クミン、メース、カルダモン、シナモン。

●ヴェヌゴパールシェフの場合
レッドチリパウダー、コリアンダーパウダー、ターメリックパウダー、フェンネルシード、フェヌグリークシード。

●ハリオムシェフの場合
ターメリック、レッドチリパウダー、パプリカ、アジョワン、クミンシード。

最後のアトゥールシェフ(ロンドン・モダンインディアンのスターシェフ)の回答は、「かっこいい!」と思わず唸ったので、短いセリフだが、ノーカットで。

●アトゥールシェフの場合
ターメリックとレッドチリ、コリアンダー。さらにそこにクミンとブラックペッパーを追加できるなら、僕は今すぐここでブッフェを開けるよ。

自分にとっての無人島スパイスを想像するのも、香りの体感につながると思う。

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