見出し画像

26. 10分でアメ色玉ねぎを作る、は本当にできるのか? 問題

玉ねぎをアメ色になるまで炒めたらカレーはおいしくなる。これは、世間の一般常識です(笑)。ただ、アメ色玉ねぎを作る手段は、無数にあります。そして、おそらく最も大事なのは、何のためにアメ色にするのか? を考えることだと思います。

のっけから面倒くさい話ですみません。玉ねぎアメ色がカレーをおいしくすることは誰もが主張してきました。でも、それを叶える方法は、あまりたくさん提示されていません。多くの場合、「玉ねぎを弱火でじっくり長時間かけて炒めること」とされてきました。でも、そこにどんな狙いが隠されているのかは、ほとんど誰も語らないできました。「甘味を引き出す」とか「うま味を凝縮させる」といったあいまいなことは語られてきましたが、それ以上のことは考えもしなかったのかもしれません。なぜそうなるのか? が大事なのに。そうやって、日本のカレーの世界は、150年もの間、玉ねぎ炒め神話がまかり通ってきました。

たぶん、いろんな物事には、“狙い”があって“目的”が定まり、そこへたどり着く“手段”があって“結果”が伴います。最終的に求められるのは結果です。カレーがおいしくなれば誰も文句は言わない。玉ねぎがアメ色になることが結果、そのために“弱火で長時間”は手段、アメ色にするが目的、どうしてそうする必要があるのかが狙いです。逆算すれば、狙いに本質があると僕は思います。

アメ色にする狙いは、ひと言で言えば、「メイラード反応を起こす」ためです。糖分とアミノ酸を一緒に化学反応させ、おいしさを生み出す。これを玉ねぎの表面を使ってやるのが玉ねぎ炒めです。アメ色は、メイラード反応がうまく起こりましたよ、の証拠です。ステーキの両面をこんがり焼くとおいしくなるのと原理は同じ。だとすれば、玉ねぎの表面を使っていかにメイラード反応を起こせるかが大事です。

玉ねぎを根気よく炒め続けたことはありますか? ひとたび炒め始めたら木べらを動かし続け、鍋のそばから離れられない。200gの玉ねぎ1個をごく弱火で根気よくアメ色になるまで炒めてみたことがあります。100分かかりました。果たして、この100分間にどれだけの意味があるんでしょう? 

同じアメ色にするのに1/10の時間、10分間で炒める方法があります。1時間半、短縮できる。だとしたら、そっちのほうがいい、と思いますよね。僕もそう思うから、僕は玉ねぎ炒めに時間はかけません。

どうすれば10分でアメ色玉ねぎが作れるのかは、具体的に解説しながら実践した動画があるので、それを見てもらえればと思います。ポイントとなるのは、火入れです。加熱による温度のコントロールを習得すれば、アメ色は簡単です。これまでおいしいカレー作りのために玉ねぎとの格闘を余儀なくされてきた多くの日本人をその呪縛から開放することができるかもしれない、と思っています。大げさかな。

10分でアメ色玉ねぎが作れたからと言って、それが偉いのか? というとそうでもない。10分アメ色は、手段のひとつ。時短ならいいとは限らないんですね。忙しい人は10分でやりたいかもしれない。でも、時間にゆとりのある人なら、弱火で100分間放置して、たまに鍋中をかきまぜに行きながら、トレンディドラマでも見たりするかもしれない。どっちが偉いのかは判定できません。

しかも厳密に言えば、メイラード反応を起こしている表面積は100分でも10分でも同じかもしれませんが、玉ねぎの中に残る水分量は違います。100分炒めて90%の脱水が実現したとして、10分炒めでは、50%しか脱水しないかもしれない。この場合、メイラード反応が及ぼすおいしさは同等でも、その玉ねぎがカレーになった時に残った水分が味わいに及ぼす影響はだいぶ違います。どちらがいいかは作りたいカレーの味によって変わります。それだけ、カレーにおける玉ねぎの加熱調理は複雑で面白いんだと僕は思っています。

……と、まあ、これだけどうのこうの言っておいて、「水野のカレーはたいしておいしくない」と誰かに言われたら、僕は黙るしかありませんね。結果がすべてですから……。

★「10分でアメ色玉ねぎを作る」の動画はこちらから。https://youtu.be/qqlh9TH0yLg



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?