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191.バターチキンに最適な隠し味はきな粉なのか? 問題

インドのバターチキンというみんなが大好きなカレーに最も適した隠し味が見つかったかもしれない。それは、きな粉なのかもしれない。「正月にお餅を食べながらふとそう思った」とかだったら話ができすぎているが、僕はお餅には辛味大根としょう油がいい。ただ、たまたま手元にあったきな粉をながめていてふと浮かんだことは間違いない。

AIR SPICEの今月のテーマは、「バターチキンカレー」である。「二度と同じスパイスセットは作らない」ことにしているAIR SPICEだが、あまりに人気が高いため、バターチキンだけは毎年欠かさず登場する。すなわち、12回に1回はこのカレーなのである。とはいえ、レシピやスパイスの配合は変えているから、5年やったら5種類のバターチキンを開発することになる。

とある月のAIR SPICEレシピが最終確定するまでに、合計3回の試作を行うことにしている。まず、1年の間のどこかで1回目の試作をする。レシピを整理できたら冬に次の春からの12か月分のカレーを撮影する。この撮影時に調理するのが、2回目の試作を兼ねている。イメージ写真が仕上がったら発表。実際にその月がやってくる直前に3回目の試作をする。タイミングによるが、長いものだと初回の試作から3回目の試作までに2年近くかかるものもある。

当たり前のことだが、試作を重ねるたびにレシピは改良されていく。2年も経てば僕自身の実力がだいぶ上がっている(はず?)だから、レシピが更新されていくのは必然である。また別の楽しみもある。過去に自分が試作開発したレシピが新鮮に感じられるのだ。「へえ、ここでこれをやるのか」とか「なるほど、この配合ね」なんて改めての発見があっていい。不可解なものもある。「なぜこの手順にしたんだろう?」とか「この材料は要らないよね」みたいなものも。

昨日、今月のバターチキンについて、最終の試作に挑んだ。レシピを見てみるとマリネに「アーモンドプードル」とある。ふうん、アーモンドプードルにしたのね、と自分のレシピに突っ込む。バターチキンのマリネにナッツを使う場合、オーソドックスなのはカシューナッツパウダーだ。ところが、手に入りにくい上に自分で粉末に挽こうとすると油が邪魔してうまくいかなかったりする。作る人に手間をかけすぎることになるのだ。スーパーの製菓材料コーナーへ行けばアーモンドの粉は売っていることが多いから、そうしたのだろう。実際、アーモンドプードルを使うのはカシューナッツよりも好きな味になる。

さて、マリネをするか、という段になって、たまたま目に飛び込んできたのが、「きな粉のあまり」だった。ほんのわずか、袋の中に残っている。そこでふと考えた。バターチキンのマリネにこれを入れてみようか。アーモンドプードルの代わりに。

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マリネにこの手の粉を入れる狙いはふたつある。ひとつはそのもののコクを隠し味にするため。もうひとつは、マリネ液にとろみをつけて肉へのスパイスの付着を強化するため。たとえばそれがごまでは風味が邪魔をする。小麦粉は風味が少ないがとろみが強まり過ぎる。ベッサンというひよこ豆の粉を使ったこともある。悪くないが、ちょっと焦げつきやすかった。ナッツ系のパウダーがやはりちょうどいいのだが、きな粉はどうだろう? 

きな粉の原材料は大豆である。ただの大豆ではなく、大豆を煎って粉砕したものだから香ばしいあの独特の香りもスパイスとの相乗効果がありそうだ。とある製粉会社の情報では、「220度前後で30秒ほど焙煎」とある。商品によっていろいろあるが、ともかく、香味が立っている。

マリネに応用してみることにした。今回のレシピは、ヨーグルトの量を極めて少なめにしている。450gの鶏肉に対して10%にあたる45g(大さじ3程度)のヨーグルトしか加えない。僕はバターチキンやタンドーリチキンのマリネに使うヨーグルトをできる限り少なくする手法が気に入っている。その方が肉の表面にスパイスが付着しやすい上に加熱したときに肉のうま味やスパイスの香味が強まりやすいからだ。手でもみもみしているとふわっとやわらかくきな粉の香りがする。なんだかとてもいいアイテムを見つけてしまった気持ちになってワクワクする。

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お餅を食べるなら何かしらの砂糖をきな粉に混ぜるから、今回のレシピで煮込みにはちみつを使う予定だったところをきび糖に変えてみた。こうすることによって、投入するタイミングは違えど、「お餅を食べるときの甘いきな粉を使ってバターチキンを作る」という、なんとも後ろめたい行為が生まれ、それがまた自分を盛り上げる。

バターチキンを作った。マリネ↓鶏肉を焼いているとき、ナッツのパウダーを使ったときよりも肉の表面に火が入りやすい印象を受ける。すなわちメイラード反応はより促進されているから、その分、おいしくなっていると期待が膨らむ。

完成したバターチキンを試食する。どおだ? きな粉の効果は?

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んんん、正直、あまりはっきりとは感じない。当然、同じレシピで同時に別の粉を使ったカレーを複数作って比較しないことには判定できないが、おそらく、この味の印象なら、期待した効果は生んでいないような気がする。それでもマイナス点は感じなかったから、ナッツ系のパウダー以外にきな粉も有効であることは確認できた。「お餅につけて食べるきな粉なんだけどさ、バターチキンのマリネにもいいんだよね」というネタにはなったかな。マリネするときに砂糖も一緒に混ぜたら加熱時にキャラメリゼ的な効果も出そうだ。どうせ煮込みで使うなら、マリネで入れてもいいかもしれない。

仮説の検証はしたものの、効果がはっきり認められるという結果は得られなかった。でも、この調子なら、バターチキンのマリネに色んな粉を試すのは楽しそうだ。もっとこの料理をおいしくしてくれる「粉」がありそうな気がしている。


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