33. 玉ねぎを炒めなくてもカレーはおいしくなるのか? 問題
玉ねぎをキッチリ炒めればカレーがおいしくなることはわかっています。おそらくカレーを作ろうとする人なら誰もが知っているでしょう。でも、その逆がどうなのかを知っている人はほとんどいないのかもしれません。玉ねぎを炒めずにカレーを作ったらおいしくできるのかどうか。
僕は去年くらいから具体的に関心を持つようになりました。ひとつの疑問があったからです。おいしいカレーを作るのに玉ねぎを炒める必要はあるんだろうか? と。たとえば、バターチキンのようにバターや生クリームでコテコテにしたカレーなら玉ねぎを使わなくてもおいしくなります。そうじゃなくて、いわゆるオーソドックスに玉ねぎを必要とするカレーのレシピで、玉ねぎは使うけれど炒めずに作る場合の話です。
僕の仮説は、「玉ねぎを炒めなくてもおいしいカレーは作れる」というもの。先週末、「dancyu祭り」というイベントに出させていただき、その2日目のキーマカレーで検証してみました。イベント本番に実験とは! と怒らないでください。自信があったので、大量に作る機会に挑戦してみたかったんです。7キロの玉ねぎを使って30リットルのキーマカレー(イベントでは約180人分)を作る。
どうやったのかを公開します。材料も作り方もきわめてシンプルです。まず、寸胴に油を少々注ぎ(結果的にこの油は必要なかったと思います)、4つ割りにした玉ねぎをどんどん放り込んでいく。細かく切る必要もありません。1リットルくらいの熱湯を加えてふたをして強めの中火で蒸し煮。30分くらい経ったところで、にんにくとしょうがをフードプロセッサーで加えました。さらに1時間ほど蒸し煮。
蒸し煮の間は、やることがありません。15分に一度くらい、鍋のふたを開けて底をこする。さらに30分ほど経ったところで5キロのホールトマトを投入。トマトをつぶすこともせず、そのままドボドボ。面倒だからではありませんよ。結果的に手抜いていることになってますが、どこまで細かいプロセスを省けるかの検証でもあるので。1時間ほど蒸し煮し、トータル3時間経過したところで前夜の仕込みは完了。この時点では、ただの玉ねぎ、にんにく、しょうが、トマト煮です。
イベント当日の早朝、豚ひき肉と鶏ひき肉をブレンドしたものをオーブンの天板に敷き詰めます。200度で15分焼く。焼き上がりは肉汁と脂分がジュワジュワとにじみ出ている状態。ここにあらかじめミックスしておいたパウダースパイスをドバドバ振りかけて混ぜ合わせる。とってもいい香りがしてきます。それをトマト煮の寸胴に放り込む。すべてのひき肉を加えたところでココナッツミルクを注いで1時間煮込む。弱火でふつふつとさせる程度。あ、隠し味に味噌を加えました。最後にフライパンに油を熱し、ホールスパイスを炒めて煮込んでいる鍋に油ごとジャー! 完成です。
トータルの調理時間は前夜に3時間、翌朝に2時間ほどでトータル5時間。でも、鍋の前に立っていた時間は30分以下です。4時間30分は、キッチンには入らず別のことをしていました。結果、カレーは非常においしくできました。イベントで食べていただいたお客さんからも嬉しい感想をいっぱいいただきました。「どうやって作ったんですか!?」とおかわりをしてくれた方や「このキーマ、AIR SPICEで商品化してください!」と言ってくれた方や。初日のビーフカレーは5倍以上の手間がかかっているのに2日目のキーマの方がもしかしたら反応がよかったかもしれません。となると、おいしいカレーを作るのに玉ねぎを炒める必要はない、ということになります。少なくともあのキーマカレーに関して言えば。
玉ねぎの糖度は加熱しても変わりません。すなわち、生の状態とアメ色の状態の糖度は同じです。ただ、加熱をすると辛味や苦味などが減少するため糖度を感じやすくなる。ただそれは少し煮れば実現します。アメ色にする意味は香味とメイラード反応です。この2点をなんとかすればいい。今回は理論上、メイラード反応を諦めて香味は挽き肉をオーブンで焼くこととテンパリングで補う設計にしています。
このレシピはまだまだ改良の余地はありますが、あんなに簡単においしいカレーができるなら、全国各地で玉ねぎと格闘するカレー屋さんを苦しみから解放してあげられるかもしれません(笑)。空いている4時間30分であと9種類のカレーが仕込めるわけですから。
玉ねぎを炒めなくてもいい、とか炒めないほうがおいしいという話ではありません。玉ねぎを炒めることだけがおいしいカレーにたどり着ける道ではない。玉ねぎ炒めの狙いを分析して同じ効果を別のプロセスで代用させてレシピを構築しなおせばいい。
登る山、目指す山頂は同じでも登山道はいくつもあるんですね。
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