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172.「乾かす」とカレーはおいしくなるのか? 問題

ドライカレーというものがとっくの昔から日本には存在する。
それがどんなものをさすのかはあいまいだけれど、なんとなくのイメージでは、水分がほとんどなくなった状態の挽肉のカレー(キーマカレー)みたいなものを指す場合が多いように思う。ドライという表現が言いえているのかどうかはわからないけれど、どんなものでも煮詰めたりすればドライカレーと言えなくないだろう。

「乾かす」という技術テーマを掲げたとき、それをドライカレーと呼びたいな、と思ったものの、すでに存在しているカレーとのすみわけが難しく、ちょっとだけ悩んでいる。

乾かすというテーマはちょっとだけややこしい。カレーを乾かす場合と、乾かした素材でカレーを作る場合と2種類あるからだ。前者は、どちらかといえば従来のドライカレーに近い。仕上がりの状態が脱水されてドライっぽくなるからだ。とはいえ、煮詰めたり脱水したりする以外に「カレーを乾かして仕上げる」という手法は、あまり想像がつかない。今回、取り上げるのは、後者の方だ。乾かした素材を使う。これは、そもそもスパイスで作るカレーがそういうものである。スパイスは主に植物のさまざまな部位を乾燥させたものだからだ。

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押上『スパイスカフェ』の伊藤シェフと「乾かすをテーマにカレーを進化させる手法を考えられないか」と話し合った。ドライスパイス以外ですぐに浮かぶのは、いわゆる乾物。乾燥させることで風味を凝縮させたものが多いから、水で戻せばたいていのものはおいしくなる。出汁のうま味が出たりなんかして。

出汁のうま味が出る方向(A)、風味が強まる方向(B)、香り高くなる方向(C)とおおまかに分類したときに、ドライスパイスはCになるのだが、一般的にスパイスと捉えられていないものでスパイスに匹敵するような香りを持つ食材は、野菜類や植物類の中ではあまり候補が上がらなかった。結果、キノコ類とゴボウを採用した。Bにあたるものとして海藻類を採用。Aについては特に使わずにカレーを作った。

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ドライスパイス以外の野菜類、ほかアイテムの中でスパイスとして活躍させられそうなものを探す、という目的については、これというものは見つからなかった。カレーを作るという点でいえば、クミンもコリアンダーもターメリックもチリも、選ばれるべきものが選ばれて残っているというのがふたりの共通の印象だ。ただ、乾かした素材がカレーをおいしくするということはいくつかのポイントで確認できた。

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これらのことと並行して、去年から玉ねぎを乾燥させてカレーに応用する手法を実験し続けている。こちらと合わせて、新しい取り組みを思いつき、スタートさせた。一応、名前は「カレーの粉」としている。「カレー粉」ではなく、「カレーの粉」である。この取り組みにかなりの可能性を感じているため、もう少し練られてきたら発表したいと思う。

その昔、ここでの記事でも書いたが、カルダモン、クローブ、シナモンなどのドライスパイスを水で戻してから加熱してカレーを作るという実験をしたことがあった。その当時、パリで活躍していたフランス料理シェフの友人が、「植物はそれが元あった状態の水分含有率に戻すことでおいしくなるんじゃないかと思う」という言葉を残してくれている。そのことがずっと頭にひっかかっている。

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たとえば、にんにくは収穫した後、干してから我々が一般的に使う状態になる。しょうがは収穫したままの状態でも使えるが、その場合の水分含有率は90%近くになるそうだ。一方で、ドライガーリックパウダーやドライジンジャーパウダーもある。それらのパウダーを元あった状態の水分含有率に戻してから作るカレーと、いわゆる生にんにくや生しょうがをすりおろして作るカレーの味の差をチェックしたりしてみたい。

カレーを作るために使う様々な素材を乾燥させたり水で戻したりしながら、ベストな状態を探るのも楽しそうだ。

乾かすことで味や香りが強まるアイテムがあることはわかっている。どう応用してカレーを作るといいのかを実験していくのは楽しい作業になりそうだ。

※このトライアルは、雑誌『RiCE』カレー特集(2021年4月末発売)にて掲載中。


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