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193.世界最速!? 1分間でカレーは作れるのか? 問題

僕がカレーを作るときに欠かせないアイテムに「スケール」と「キッチンタイマー」がある。ご想像の通り、前者で重さをはかり、後者で時間をはかる。カレーの7つ道具に入れてもいいくらいだ。

①鍋 ②木べら ③ゴムベラ ④包丁 ⑤まな板 ⑥スケール ⑦タイマー

うん、やはりベスト7には入る。「作る行為」と「計測する行為」をセットにしておくのはとてもいい。おいしいカレーを作るコツに僕がいつも挙げる“よく観察し、自分のモノサシを持つこと”という点にも貢献する。そして、何より楽しい。やたらとはかるのが楽しくなってくると遊びたい気持ちも芽生えてくる。たとえばこんなふうに。

たった1分間(60秒間)でカレーを作ることはできないだろうか?

レトルトカレーだって3分はかかるだろう。実現したら、もしや世界最速!? そんなふうに盛り上がったのは、“カレーの粉”プロジェクトの研究会をしていたときだった。このプロジェクトはとても面白い。メインの具以外のすべてを自家乾燥し、粉状に挽いてカレーを作ることに執念を燃やしているチームなのである。幾度となく試作を繰り返し、これまでに“海のカレー”と“山のカレー”を完成させている。たとえば山のカレーでいえば、ポークカレーの豚肉と油、水以外のすべてを粉化する。きのこ類を片っ端から乾燥させて粉にして、どれとどれをどの配合比率で混ぜたらおいしくなるかを延々と試作する。
過去2作に加えて3作目として“畑のカレー”に挑もうということで、話し合いの場があった。手元にある適当な粉を用いてエビカレーを作り、食べながら話し合う。このエビカレーを作る段階で、ふと思いついたのだ。エビに火が入るまでにかかる時間は1分ほどでいい。だとしたら、1分間でカレーができるかもしれない、と。

●世界最速!? “カレーの粉”で作るエビカレー
【材料】
玉ねぎの粉 16g
トマトの粉 13g
柿の粉 5g
にんにくの粉 8g
しょうがの粉 4g
しめじの粉 10g
ひらたけの粉 5g
エリンギの粉 5g
スパイスの粉
・コリアンダー 10g
・ターメリック 1g
・レッドチリ 0.5g
・ブラックペッパー 1.5g
カレーリーフ(今回は粉でなくホール) 20枚
塩 5g
油 大さじ3
水 適量
エビ 12尾

【作り方】
鍋にすべての材料を入れて混ぜ合わせ、ふたをして強火で煮立て、弱火にして1分間煮る。

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念のため、キッチンタイマーを3つ準備し、1分後、5分後、10分後に分けて試食をしてみる。1分後のカレーですでにうまい。あれ、できちゃった。世界最速カレー。5分後の試食では、カレーソースのテクスチャーに少し変化が感じられる。粉っぽさが消えてなじんでいる感じはするけれど、劇的な変化は見られない。その代わり、具のエビは硬くなってしまった。10分後のカレーは、カレーソースにエビの出汁がしっかり出ている上に煮詰まっているため、濃厚な味わいが楽しめる。ところが、具は縮んで味気なく、非常に残念な状態。

エビカレーに関して言えば、1分後がいちばんおいしかったように思う。カレー作りはベースと具との役割分担が大事になるが、シーフードを具にする場合は、特に具としておいしく味わうなら具に火が通った直後に完成させて食べるのがいい。だとすると、素材や切り方によるが、たいていのシーフードは煮立ったあとふたをして弱火加熱なら1分ほどで火が入るだろう。ということは、“カレーの粉”を使えば、ほとんどのシーフードカレーは1分間で完成してしまうのである。すごい……。

得意になっていたときに、ふとある商品を思い出した。そういえばフリーズドライのカレーはかなり良くできていたな。調べてみると、調理時間は1分である。そして、レトルトカレーも最近はレンジ対応が増えているようだ。昔は最低3分以上は湯煎したような記憶があるけれど、ちょっと調べてみると600Wで1分とか、短いものは50秒というものもある。レトルトカレーを食べない僕は完全に浦島太郎状態である。なあんだ、“カレーの粉”カレーが世界最速だと盛り上がったのに。でも、肩を並べる手前まで迫ったということで満足しておこうか。

そもそも僕は時短カレーには興味がない。必要な時間と手間はかけるべきだと思っているし、かけた方が確実においしくなるのだから。かつて「ハンズオフカレー」という手法を1冊の本にしたことがあったが、あの本を「時短カレーの本だ」と勘違いされた方が多かったようで、ちょっとだけ残念な気持ちになったことを思い出す。その点、“カレーの粉”カレーは違う。加熱開始からは1~2分で完成するものの、各材料を乾燥して粉に挽く時間を積算したら完成までに1週間とかかかってしまうからだ。やはり、時間を短くすることよりもできあがるまでの時間を楽しむことを重視してカレーと向き合いたいなぁと思う。

あ、こういうのを世間では「負け犬の遠吠え」っていうんでしょうな、きっと。

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