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ファンタジスタの宴【前編】言霊ナイフが胸を撫でる夜に

今から20年ほど前の話、現在のようなSNSも無く、もちろんスマートフォンが登場する遥か以前は、インターネットプロバイダが運営しているホームページ作成サービスなどを利用して、Web日記や雑記、詩のようなものを掲載していました。容量の大きい画像を開くのに何分もかかるのが当たり前だったインターネット黎明期において、容量の軽いテキストサイトは非常に相性が良かったのです。

当時からネット掲示板で行われていた詩のコンテストなどに顔を出しては腕を磨いていましたが、そんな折に詩作家の楠木菊花さんよりお声掛けを頂き、菊花さん主催の「言霊ナイフ」という詩の朗読イベントの観覧にお邪魔した時のことを振り返りたいと思います。

ちなみに現在は「言霊ナイフ」で検索しても、関連する情報は何ひとつとして見つからない状態です。約20年間続いたYahoo!ジオシティーズのサービスも昨年終了し、もしかすると私の持っているフライヤーが、この世に現存する唯一の資料の可能性があります…。

さて、ポエトリーリーディングと言えば「詩のボクシング」が最も有名だと思います。リング上で、言葉だけでどれだけ人の心を動かせるかを競う、声と言葉の格闘技です。最初はプロの詩人さんや作家さんのみが出場していましたが、一般の人も参加出来るようになると次第に裾野が広がり、カフェやバー、ライブハウスなど各地で詩の朗読会が開かれ、中にはイベントのオープンマイクをハシゴして賞金を稼ぐ腕自慢の詩人さんなどもいました。

「言霊ナイフ」のイベントが行われた2002年10月20日、東京高円寺ガード下のアートバー無力無善寺。マスターの無善法師が作り出したサイケデリックな雰囲気の非日常空間は、表現活動を生業とする異才の人間にとっては心の拠り所でもあります。私の知る限り、野良の詩人さんは皆さんもれなく変人です。でもとにかく温かい。詩が好きで、言葉が好きで、その想いの強さゆえに周りの共感を得られない淋しさや疎外感があるからこそ、その鬱屈とした想いが解放された瞬間にビッグバンが生まれるのだと思うのです。

初めて目の前で見た朗読のステージは、あまりの迫力に圧倒されたり、言葉選びの面白さに笑ったり、赤裸々な独白に衝撃を受けたり。休憩タイムで一度退出する際には、受付のHARUNAさんがパスの代わりにと、私の手の甲に水性ペンで子猫のイラストを書いてくれました。初対面の人に、自分の手にペンで絵を描かれるという出来事は、後にも先にも経験の無い不思議な感覚でしたが、それを戸惑うことなく受け入れていた私も、ひとときの言葉の魔法に掛けられていたのかも知れません。

先日、いつものように面白いnote記事を渡り歩いていたら、言霊ナイフのイベントで知った詩人のミキさんのnoteに巡り会い、まるであの18年前の夜に時間が遡ったような感覚に包まれています。

ミキさんの詩集もさっそく購入しました。話の続きは次回の【後編】にアップしたいと思います。

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