刀ミュと刀ステ~ストーリーの着眼点について~

昨年12月、刀ステの客席でわたしは震えた。役者の演技はもちろん素晴らしかったけれど、それだけじゃない。「ストーリー、とうとうここに踏み込んできたか…!」と思ったからだ。同じようについ2週間前、刀ミュ東京凱旋でやっぱりわたしは「ストーリー、ここに踏み込んできたか…!」と震えた。どちらも初演から追ってきて、ここにきてやっと、自分のなかで「2つの本丸」のストーリー上の着眼点の違いが見えてきたような気がするので記しておくことにする。

※ネタバレが入ります。ご了承を。


ゲーム「刀剣乱舞」をメディアミックスするということ

そもそも、ゲーム「刀剣乱舞-ONLINE-」のメディアミックスは、他の2次元作品の映像化、実写化とすごく違う点があるなと思ってとても興味深く見ていた。

それは「原作にほとんど物語がないこと」だ。

元々のゲームで示されるのは、キャラクターとキャラ設定、何枚かの絵、おおまかな舞台装置の説明、わずかなキャラクター同士の会話のみ。どちらかというと、原作というよりは設定集のようだなと私は思っている。そこから舞台を作ろうとすると、キャラクターはともかく物語の方は最初から最後まで新しいものを作らなくてはならない。

とかく「原作に忠実」であることが良しとされがちな2.5次元作品の中で、大きなストーリーのない刀剣乱舞は必ず「舞台版オリジナルストーリー」を示さざるをえない。2.5次元でくくられがちだけど、そこが1点他作品と違うところであり、最も大きな特徴だ。

だからこそ公式はミュージカルと舞台の2種類を用意して、あくまでこれらが「とある本丸」であるということを強調したのかな、と思う。この本丸が絶対の答えじゃないですよ、というのを一番わかりやすく示すために。これはアニメでも同じことだ(アニメも「活撃」と「花丸」という、テイストの全く異なる2パターンが用意された)。

さて、そこで重要となってくるのが「原作のどの部分を膨らませて1本の物語に仕上げるのか」という点である。


刀ステの「SFっぽさ」

刀ステ2作目(公演としては3作目)の 暁の独眼竜 を観たとき、正直に言うと私は「刀ステがSFになった!」と思った。

暁の独眼竜の物語の肝は、「ループもの」である。

同じ時間を何回も繰り返して、円環からの脱出をはかるストーリー。SFではよくある「タイムトラベルもの」のジャンルのひとつであり、小説でも漫画でも多く描かれている。一方、最新作・三つら星刀語りでは、過去に飛んだ刀剣男士たちが、過去の自分たちと対面する。過去の時点では謎であったいくつかの出来事が、実は未来の自分たちの仕業だということが段々とわかってくる作りになっている。こちらもジャンルとしては「タイムトラベルもの」に入る。

刀ステは、真正面からタイムトラベルとタイムパラドックスに挑んできた物語だった。

しかし考えてみれば、原作ゲームの「刀剣男士たちは過去に飛ぶ」設定が、そもそもタイムトラベルそのものなのだ。ステは原作ゲームの仕掛けを最大限に膨らませ、一本の物語に落とし込んだのだと言えるのかもしれない。


刀ミュの突きつける「歴史とは」

刀ミュはというと、最初のほう、個人的には「はじめて生身の体を得たキャラクターの葛藤を描く作品」なのかと思っていた。

それがひっくりかえったのが、最新作の つはものどもがゆめのあと(以下つはもの)である。

つはものの最後、源義経と弁慶は平泉を逃れ旅立つ。今も存在する「義経チンギス・ハン説」を下敷きにしていることは明らかだ。それを三日月宗近は「これも歴史のひとつの形」と肯定する。

思い返してみれば、前作・三百年の子守唄でもその片鱗はあった。徳川家が滅ぼされかけたとき、刀剣男士たちは徳川家の側近になりかわり、記録上の「うわべの歴史」を再現しようとする。細かいところが異なっていても、要所のつじつま(=現在に残っている出来事)さえ合っていれば歴史は正しいままだという解釈である。

私達の認識している歴史とは何か、という問題がそこにある。

書物や遺物に記された断片的な情報。市井のひとびとの間に残る言い伝え。戦争の勝者が歴史を自分たちに都合の良いように書きかえるのは、はるか昔から繰り返されてきた行為だ。点としての事実はあっても、結局のところ、過去に真実何があったのかは、現在を生きる私達にはわからない。

実在が疑われる刀剣も、そうした歴史のはざまで生まれた伝説たちである。

刀ステがゲームシステムを物語に膨らませたのだとすれば、刀ミュは「刀の擬人化」「歴史を守る」という刀剣男士の設定そのものを掘り下げた物語だった。

刀ステはストーリー先行でキャラが後から付いてくるタイプ、刀ミュはキャラ先行でストーリーが後から付いてくるタイプだな、と漠然と感じていたのだけど、こうして考えてみるとその印象は正しかったのかもと腑に落ちる。


二次創作のおもしろさ

刀ミュと刀ステ。着眼点の違いで同じプラットフォームから全く違う2つの本丸が生まれる、というのは、すごく面白い(演出の違いはまた別として)。

この楽しみ方ってすごく二次創作的だな、と思う。今までになく作り手の色が出るこういうやり方、個人的にはすごく好きだし、これからもたくさんの解釈を見ていきたい。「ここを拾ってきたか!」「こういう話の膨らませ方があったのか!」と膝を打つのがすごく爽快なので。

今後の新作もすごく楽しみだ。好きな作家の新刊を待つような気分で、新作の題材と登場刀剣男士の発表を待っている。刀ミュ新作がどんな話になるかも気になるし、刀ステ新作はいよいよタイムトラベルものの核心に踏み込んでいきそうで今からどきどきしているよ…!

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