カウンセリング 2 長い道のり

 クリニックの玄関にて先週忘れた傘を発見。ちょうど午後から雨の予報で、病院に向かって歩いているときもぽつぽつと水滴を感じていた。

 カウンセリングで話すことは、ぼんやりと事前に思い浮かぶこともあるけれど、大抵は何も考えずに診察室へ入る。今日は「ちょっと疲れ気味ですー」と言って、月曜日の新年会と、火曜日の二日酔いと、そのせいで胃腸がぐったりしていることを話した。胃薬が処方された。ありがたや。
 昨日の夜は特に胃が重くて、夕食とその後の精神安定薬等を摂らずに眠ったところ、今朝は目覚めた瞬間からひどい鬱状態で、3時間ほど起き上がることができなかった。
「やっぱり、食事をしなかった時は、食後の薬も控えたほうがいいんですよね?」
「うーんとね……いや、今出してる薬で、消化器の負担になるものは無いから大丈夫だよ」
「そうなんですか!」
 だったら飲めばよかった……。

 そこで少し会話が途切れる。私の頭の中に、言いたいかもしれない事柄がひとつ、漂う。
「あの……」
 何故だか口に出しづらい。
「最近……この思考は治したいと思ってることが……あるんですが」
 ちぐはぐな日本語。だんだんと涙声になってきて、自分でも戸惑う。
 頭では、「ちょっとした気持ちの変化を報告するだけなのに、どうしたんだ」と思っている。
 けれどこういう時は、大抵、体の反応の方が的を射ている。

 事実、私の言葉(今日は書かないでおく)を聞いた医師は驚いた様子でカルテを取り、珍しく矢継ぎ早に質問を繰り出した。一通り問答を終えた後で、まとめるようにゆっくりと言い含める。
「これは治療の、重要なポイントの1つになることです。今は極力、新しい行動は控えて……それで更にどんな感情が湧き上がってくるか、観察しましょう」
「はい」
 私の方では大したことないと思っている事柄が、治療のターニングポイントになることは、今までも何度かあった。というより、自分では気付けないからこそ、専門医の協力が必要なのだ。

 傘を差しながら、雨の帰り道をだらだら歩く。
 治療のための新しいポイントが1つ見つかったのは、嬉しい。
 だけど、一体あといくつ、そうした点を見つけなければいけないんだろう。
 今の私には、それらの手がかりすら見えていない。

 今朝のようなことがあると、普段元気に動けているのは、あくまで薬を飲んでいるからなんだと思い知る。
 短くとも4,5年の歳月が必要な治療。頭では分かっている。
 でも、どうしても焦ってしまう。
 いっそ未来のことなど考えず、今から1週間先、あるいは今日1日だけに意識を集中して生きられたなら、もっと心は休まるだろうに。

 あー、猫になりたい。(昨日と同じオチ)


#生活素描

よい一日を、お過ごしください(*^▽^*)