生活素描

 精神的な落ち込みからはだいぶ立ち直り、ましてや月曜日のお酒で弱った胃腸はもう復活したと思うのだけど、やっぱり朝はまだ、かりかりのトーストよりは、豆乳仕立てのパン粥にはちみつをいれて優しく食べたい。胃薬もまだ必要と感じる。とするとやはり、まだ心の裡にも何らかのわだかまりが残っているんだろう。ため息もいつもより多い。
 やわらかな朝ごはんを食べて、昨日届いた翻訳原稿をちょっと覗いてみたら、思いのほか面白くてパジャマのままどんどん読み進めてしまった。
 そして、昼になってしまった。13時過ぎにやっと着替えをして、スーパーへ行こう、と決めた。牛もものブロックを買って、夕ごはん用にローストビーフを作る。お昼ごはんには、お弁当でも買ってこようか。脂っこくないものなら何でもいい。お寿司でも食べれば少しはテンション上がるだろうか。

 果たしてスーパーのブロック肉は豚ばかりで、ローストビーフの主材料は見つけることができなかった。まあ、明日、教会の近くにある業務用スーパーに行けばきっとあるだろう。今日のところは、と、鶏肉コーナーにあった味付き手羽元を手に取る。黒胡椒仕上げか、カレーパウダー仕上げか。味の種類はあと2つほどあって、パックにはお肉によくある「3つで1,000円」のシールが張られていたけど、ひとり暮らしなのでそんなに要らない。ふと、黒胡椒の方は消費期限が今日であることに気付き、ああ、もしかしたら夕方予想外に疲れて台所に立つ気力が湧かないかもしれない、と、2月2日が期限だったカレー味だけをカゴに入れて立ち去ろうとしたけど、よく考えたら今はカレーフレーバーを楽しむ気分じゃないな、と思って足が止まった。というか私、さっきまでローストビーフを作る気満々だったじゃないか。もう一度黒胡椒味を手に取り、カレー風味と交換するか少し迷って、結局2つともカゴに入れる。これくらいなら消費しきれる。3つで1,000円? うーん、やっぱり要らない。

 エコバッグ(ポリエチレン製のレジ袋の代わりにポリエステル製のバッグを使うことが本当にエコなのか自信は無いけど、まあ、使い捨てじゃない、というところに意味があるんだ、きっと)を提げて、明るいけれど寒い帰り道を歩く。お昼ごはんは今買ったお寿司、夕ごはんは黒胡椒風味の手羽元、明日の朝ごはんはトーストもしくはパン粥、昼ごはんに今日の残り、もしくはカレー風味の手羽元を食べる。食べたら、おそらく礼拝のついでに買って帰るであろう牛ももブロックでローストビーフを仕込み、それが夕ごはんになる。

 自分にしか出来ない仕事、って、こういうことかもしれないな。
 だらだらとローストビーフを調理する自分の姿を思い浮かべ、ふと、そんな言葉が浮かんだ。
 翻訳は……別に卑屈になるわけじゃないけれど、私の代わりは、いる。もっと上手い人だって沢山いる。向いている仕事だとは思うけど、果たして「翻訳は」「私を」選んでくれるのだろうか? その感覚が得られるまでは、例えば「天職」といった表現をするのは、はばかられる。

 そうか……その距離感が気にかかってたんだな。胃の辺りのもやもやが一部晴れ、一週間ほど遠のいていた食欲が、久しぶりに顔を出す。
 夕ごはん、いっぱい食べよう。やっぱり3パック買えばよかったかもしれない。


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よい一日を、お過ごしください(*^▽^*)