図書館に行くということ

 図書館からは常に8~10冊の本を借り入れて、常備菜のように日々むさぼっています。仕事状態にもよりますが、この量でだいたい1週間分。残りが少なくなると図書館のWebサイトを開き、主に著者名で検索予約し、「予約本が届きました」のメールが来てからやっと家を出ます。
 
 そういう借り方をしているので、実際に図書館に滞在する時間はごくわずかです。図書館に入るとまず、右側の壁面に自動返却機という郵便ポストのような口があります。ここに返却すべき本を1冊ずつ投入すると、裏側でコンベアのようなものががらがらと動く音がして、そして音には聞こえませんが図書に貼り付けられた無線タグと図書館のデータベース的なものが何やらとやりとりをして、めでたく返却が完了します。
 自動返却機で処理できない本もあります。本の裏表紙に「書庫納」という赤く小さなシールが張ってあるものはその例で、数ヶ月前の私は自動返却機の注意書きに気づかず、通常図書も書庫納もいっしょくたに放り込んでおりました。その後の処理をされた図書館員の皆様には、大変ご迷惑をおかけしたと申し訳なく思っております。
 その後しばらく注意書きを逐一確認しながら(書庫納以外にも入れちゃいけない本があるのです)もたもたと処理している私でしたが、今はものの数秒で自動返却する/しないを仕分け、前者はさらりと壁へ送り込み、後者をまとめて脇に抱えてさっさとカウンターへ向かいます。

「あ、あっちで返せない本があるってことで……。それと予約してた本が届いていると思います」
 これが、いつも、本当にいつもいつも言う台詞です。最初の「あ、」は、引きこもりの人間が久々に周囲の方々様と交流を持たんとする際に発するリハビリの発声です。次の「あっち」は自動返却機のことで、この前文を言いながら脇に抱えていた返却本を差し出します。本の返却はカードがなくてもできるらしく、穏やかな笑顔で図書を受け取った職員さんは、無線タグを読み取るらしい台の上に書籍を揃えておき、ぱちぱちとキーボード上に大人しい音を弾かせてから「はい、ありがとうございます。それと……」と言います。おそらく返却者の情報から、私が次に予約した本についても端末上に表示されているのでしょう。
 それに合わせて、私も「それと」と2番目の文を言います。うまいこと職員さんの台詞と溶け合うので、後半はぐだぐだぁっとなります。より正確に書くとしたら「それと予約してたほnああはい、……はーい」だと思います。最後の「はーい」は、手際よく予約本を取り出した職員さんの「こちらですかねー?」に対する返答です。

 同じ端末で貸し出し処理を済ませた職員さんが、「では○月の○日までにご返却くださいね」と言いながら本の小山をこちらに差し出してくれます。いつも日付はあまり聞いていません。基本的に貸し出し期間は2週間で、普通に5,6日で読んで返却して、といつものサイクルであれば難なく守れる期日ですので、あまり記憶に残らないのだと思います。
 しかし今日は少しだけ違いました。「○月の○日」の前半が「4月」であったからです。おのれ3月早くも去るか、とハッと考え、勢いで「4月1日」という返却期日も頭に刻まれてしまいました。だからどうということもないのですが。

 10冊近くの書籍を両手にのっけた後は、うかつな足取りでは歩けません。件の自動返却機に近づき過ぎれば、借りたばかりの本が自動返却処理されてしまうこともあるそうです。また別の方向には、カウンターを経由せずに本の貸し出しを行うための「自動貸出機」なる物体が控えています。こっちも近づきすぎると無線タグがアレして面倒です。そして両者の間、館の扉を出る途上には、図書の無断持ち出しを摘発する自動ゲートがそびえています。もちろん先ほどカウンターのお姉さまに適正な貸し出し処理を施していただきましたので、私は胸を張り、堂々とこのゲートを通過することが可能なわけです。しかし何故か毎回ちょっぴり緊張するわけなのです。

 ゲートをくぐり抜けると建物のロビーに出て、空間的にもより開けた場所となります。ふいと両手両肩の力を抜いて、運んできた書物の小山を近くの椅子に置き、鞄につめなおし、帰宅の途につきます。
 その後ろでは、老若男女さまざまの人たちが、思い思いの本を広げて自分の時間を過ごしています。私も同じように図書館を楽しんでみたいと思い、予約をせずに本を探しにきたこともありましたが、何だか妙にもったいない時間を過ごしているような気がして、今の方式に戻っていってしまいました。
 滞在時間、およそ5分。毎回歩く歩数も同じなんじゃないかと思えるほど、私の図書館通いは儀式めいています。

#生活素描

よい一日を、お過ごしください(*^▽^*)