ヒロイン

 教会近くのパン屋さんで、礼拝前の朝ごはん。いつもクロワッサンのサンドイッチを1つだけ買ってイートインコーナーへ入る。それほど小食ではないけれど、ここで食べるなら1つが限界だ。
 大通りに面した、全面ガラス張りのイートインコーナー。なるべく窓から離れた、端っこの席を選んで腰を下ろす。この位置でも、そこに座る食事客の姿は外の歩道から丸見えだ。可愛いらしいパン屋の店先の風景として相応しいよう、背筋を精一杯伸ばして、静かにサンドイッチを口にする。

 ガラスの壁に最も近い3つの席は、向かって右と真ん中が空いていて、左端にロングヘアーの女性が座っていた。すらりとした四肢が印象的な女性で、身長は170cmほどありそうだ。踵の高い黒のロングブーツと、グレーのファー付き膝下コートがよく似合っていた。タイトジーンズをはいた脚を深く組み、左手は膝の上、右手でベーグルを食べている、そのシルエットが何ともかっこいい。身長150cmの私では、どうやっても様にならないポーズだろう。
 クロワッサンを両手に持って、お行儀よく2口目をかじろうとした時、外のある一点に視線が釘付けになった。幅広の歩道と車道を分ける、一連の柵。私の腰より少し低いくらいの高さがあるそれを、車道側からぴょこん、と跳び越えてきた女性がいた。こちらも長身で、ロングコートにハイヒールがよく似合う。車道に停まっていた、おそらく女性を送ってきたのであろう車に手を振り、パン屋へ向かって歩き出す。膝上スカートと黒タイツの知的な外見と、さきほどの「ぴょこん」とした動きのギャップは、何だか可笑しかった。

 パンを乗せたトレイを手に、その女性がイートインコーナーへやってきた。迷わずガラス壁に最も近い、右端の席に腰を下ろす。その選択は無意識かもしれないが、相応しいな、と思った。私も2人の美女に負けないように、と、改めて背筋を伸ばす。快い緊張感が体に満ちた。

#生活素描

よい一日を、お過ごしください(*^▽^*)