【全部ネタばれ】年間500人の心を開いてきたプロ・インタビュアーがインタビューされて、インタビューのテクニックをすべて語り尽くしてしまった超ロング・インタビュー記事(第一回)
プロローグ:
聞いて本質を理解して、
価値化することに意味がある
年間500人以上対応のプロ・インタビュアーとして、数多くの経営者、文化人、タレント、学者、医療従事者、アスリート、専門家、ビジネスパーソンの話を深掘ってきた伊藤秋廣(株式会社エーアイプロダクション代表)が、初対面の人の心をわずか数分で開き、気持ちよく論理的に話を引き出すテクニックを、すべて大放出いたします。(聞き手:近藤由美)
インタビューって、
記事を書くためだけに必要な行為ではない
伊藤:
まずは、インタビューとは何ぞや、インタビューはどうして必要かという、そもそも論から語りたい。どうぞよろしくお願いします。
近藤さん(以下敬称略):
インタビューって、媒体の目的にあわせて、その人の考えを聞いたうえで何かしら形にしてアウトプットがあるものだと思っていました。
伊藤:
そうですね。もちろん、それはインタビューを実施する大きな目的のひとつだと思いますが、それより先に、自分の頭の中のモワッとしている思考を整理したり、棚卸ししたり、考えをまとめて、それを言語化するサポートをするがインタビュー本来の目的だと思います。そこから先のアウトプットは何でもいいですし、極端な話をすれば、アウトプットなんかしなくてもいいくらい。
例としては、ある人が会社を立ち上げるときだったり、本を執筆する前に呼ばれてブレストをしたりします。一人で考えていてもまとまらないけど、対話の中で、考えがまとまったり、「あ、こういう企画で本を作ろう」「この会社で、こんなことを実現したいと思っていた」みたいに、コンセプトを明確化することができます。
近藤:
確かに、人に話すことでわかることってありますよね。
伊藤:
めちゃくちゃあるんですよ。人に話すことで、自分が意識していなかったことを「こう思っていたんだ」、「普段こう考えていたんだ」と掘り起こして、目覚めさせることが可能です。僕がやりたいのは、コンテンツ作るためのインタビューではなく、もっと根源的な部分に価値を与えてビジネス化するみたいなことです。これもモワッとした考えですが(笑)。
具体的に言うとですね、さっき言ったように、コンセプトを明確にする、すなわち“コンセプトメイキング”の依頼は結構多くて、経営者の壁打ちみたいなのに呼ばれることも多い。ちょっと毛色の変わった例で言えば、ある会社さんから幹部たちの強みを棚卸しして、次のビジネスに繋げたいって言われて一人一時間くらいずつ話を聞きました。
確かに、普段そんなことは会社の中で話したりしないし、ましてや社長の前でなんてありえない。そこで、僕みたいな第三者の立場の人間が、その人はどんな気もちで仕事をして、どんな強みがあって、どんな工夫をして仕事をしてきたかを聞いてみると、けっこう喜んで話してくれるんですよね。
自分の仕事を棚卸しして、自分はこういう工夫をしてこういう成果があって、こんな風に客から褒められてうれしかった、やりがいになっているんだ、というのが明確になる。それを必ずしもインタビュー記事として発信するってことではないのですが、話した本人は楽しくてスッキリするし、それをまとめて社長に伝えると、その人の価値が再認識されて、そこから「この人はこういう事業に向いているよね」みたいに、新しいビジネスに繋げられる。
この間、面白かったのが、映画を制作する人と話していて、テーマをつくるとき、最初に監督とかが話のネタになるネタを拾ってきますよね。例えば、農家の話をつくる場合、農家に話を聞くじゃないですか。そこでリアルなものを掘り出しておけないと、話に深みが出ないって言うのです。そのときに僕らが出て言って、掘って、掘って、話の本質を掴んであげて、提供してあげるのもいいかなと。
映画やドラマのリアリティが足りない部分って、医療の話とかよくある話ではないですか。あれは表面的に「医療ってこうだよね」ってドラマや映画作るからであって、実際に従事している人たちが何を考えてどう行動するかという本質部分をちゃんと理解していないから、ぜんぜんリアルではない。“こんなものだろう”って決めつけてしまって、取材が甘いんじゃないかなって思うんですよね。
本質を掘り出して、価値化する。
その作業には、客観的な第三者の目線が必要
近藤:
なるほど。聞くという行為そのものに意味がある?
伊藤:
聞くだけではく、聞いて本質を理解して、価値化することに意味があるのです。聞くのは誰でもできるけれど、ただ聞いていても、本質にたどり着けない。掘って、掘って、掘っていって、本質を探り当てて、それがどういう価値を持っているかを理解する、そういう目が必要。価値化するのは、たぶん第三者じゃないとできない。自分一人が「いいことだ!」と思っていても、どうしても独りよがりになってしまいます。
第三者目線で、社会の中で、時代の中で、世の中で、その持っている本質は価値があるのか?その価値はどれくらいの大きさなのか? その価値をこれからどうしたらいいか? そういった観点から価値を判断できるのは第三者だけです。「自分はすごい、俺はインタビューの力があるぜ!」と言ったところで誰にも認められなければ、それは価値がないに等しいですから。価値化するためには、必ず第三者の目線が必要なんですよ。
もっと言えば、結局、人って、自分の思っていることの50%くらいしか言葉にできていない、と言われているらしくて、僕が今考えていることを、正しく言語化して伝えようと思っても、自分の思っていることの50%くらいしかちゃんと表現できていない。
で、聞く方は20%しか理解していないって一般的に言われていて、そうすると、50%の20%だから、本質の10%しか相手に伝わっていない、という感覚になります。だから話す人と聞く人との間に、第三者目線でちゃんと理解して価値化する作業者を置くことで、もうちょっとその確度が上がるんじゃないかという感覚。それこそ、僕らインタビューの役目なんじゃないかと思いますね。(その2へ続く)
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