短歌連作「肉の花」

肉の花

宇田川美実


肺を持つ動物のおさめる国で地下を巡っていく濁り水

ふたつめのシリンダーにも迎えられ鍵は傾向へと成り下がる

撃つという速度のふるさ躊躇いの猫はようやく棚をのぼって

掬うたび透明になる心象は手から手へ 透明のままに

伝令使その追憶を濡らす雨そして静かな踊りはつづく

虫取り網をかむりあなたは笑ってた はずでしょ まっさらな置手紙

慰める手段は尽きてチラシには艶やかな肉の花咲きほこる

コンビニの横の暗さに佇めば胃の中にひしめく鯉の群れ

自販機はつかれた缶を吐きだして肉声だけが私にあった

これきりで解散ってのも 駅はまだ白いフェンスに覆われたまま

……

たにゆめ杯4「遠い町のみずうみ賞」 受賞作
(2023.12.30)

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