サバイバルナイフ

私は幸せ者です。家庭環境にも困っていないし、友だちや恋人にも恵まれました。チーズスナックばかり食べているけど、心身ともに健康な方だと思います。

私は怠け者です。iPhoneのヘルスケアを開くと「2歩」という数字が飛び込んできました。将棋なら失格です。歳を重ねれば知識と経験は勝手に身について、勝手に人間性が耕されてゆくものだと思っていました。ところがいかがでしょう。半端に身についた知識と経験はかえって理解を妨げ、昔のように笑えなくなりました。年々心も狭くなってきています。話が違うって。こんな大人にはなりたくないなと思っている大人を自ら引き寄せている気がします。みんなのように笑いたい。

「生きてね」と言われることが増えました。心は弱い方ですがあまり死ぬことに興味はありません。80くらいまでだらだら生きて世間様に迷惑をかけるつもりです。でも私は痩せすぎていて、シャツを着ても旗のようにたなびいてしまいます。歩く白旗と呼ばれないためになるべく白くないシャツを選んで着ているくらいです。ご飯食べなよ、と心配されることに正直味を占めています。ただ、マシニストの主人公より体重が軽いと知った時はさすがに危機感を覚えました。日々の食事にもあまり興味がありません。正確にはひとりで食べるご飯に興味がありません。みんなで食べるご飯は幸せだと感じるのでみなさん誘ってくださいね。

「生きてね」にはたぶん「生存してね」以外の意味もあるんだと思います。いきいき生きることは難しい。私は2歩で失格になった自分自身を軽蔑しつづける必要がある。みんなのように笑いたいなら鏡の前で笑顔の練習をすればよい。無人島になにかひとつ持っていくなら友人諸君からの寄せ書きがいい。無人島でも元気でね、みたいな無責任なメッセージにツッコミを入れていれば人の心を忘れずに済むと思うから。あとサバイバルナイフ。

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