寝かしつけのお願い(ウィルイス)

「困ったな」

声に出してしまうのも無理はない。
親愛なる兄、ウィリアム兄さんのことだからだ。
ここ数日、まともな睡眠を取られてないことが目に見えて分かる。寝るように求めても、「キリが良いところまで」「ソファで仮眠はしたから」などと、のらりくらり躱される。

夜更けも近いので、今からせめてベッドに横になって欲しい。
リビングのソファで一人、僕は頭を悩ませていた。

「にゃーん」

ソファに座っている僕の隣で、仰向けになりながらこちらを見上げていた。その姿からはすっかりこの家に馴染んでしまったように見える。

猫が一匹増えただけなのに、この家の雰囲気は変化した。僕たちの会話の中に、君がよく頻出するようになったのだ。「何処にいるか知ってるか?」という質問は鉄板になってある。困ることに、「台所で悪戯してた」や「柱を爪とぎにしていた」など、という話も耳にする。ただでさえ、一人でこの広い屋敷を管理しているのだ。僕の仕事を増やさないで欲しいと切に願う。
ただ、君のおかげで増えたありふれた日常会話に、みんなの表情が和らぐことはとても良い事だと思う。また、動物というセラピーの一種だからか、君の側にいると心も穏やかになるのだ。

そんな事を考えれば、ふと思った。
もしかして、僕の悩みが君になら解決できるのではないだろうか。

「ウィリアム兄さんを寝かしつけてきてくれないか」

試しにそう伝えてみる。
以前から君は、僕の言葉を聞いている節があったから。

「にゃ!」

そう言って、仰向けだった身をくるりと反転させてソファから降りていく。君のために開けていたドアの隙間から、一度こちらを振り向き、にゃ!と言い残してこの場から出ていった。

寝かしつけてくれるのかという期待。
ウィリアム兄さんの部屋の戸も、君が入り込むくらいには開いてるだろうか、なんて心配。
もし、兄さんが猫の君の言葉で寝かしつけられていたら少しばかりの嫉妬。
でも、君が上手く兄さんを誘導できたなら、ご褒美をあげよう。
兄さんを夢の中へ連れて行ってくれますように。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?