【馬術】軽速歩の手前は何に合わせているのか

新学期始まって、こんな状況ですが大学の馬術部にも後輩が入ってきてなかなか熱心にやってくれています。ほとんどが未経験の大学馬術部なので毎年位置から教えています。そんななかで最初の頃に課題となるものの一つが軽速歩なのでちょっとその話を。

軽速歩の動きにおいて簡潔な説明でよく言われる説明は
【外方前肢が前に出たときに立つ】
と言われます。
なぜ逆ではいけないのか。なぜこの動きに合わせるのが良いとされるのか。誰かの役に立つかも知れないので自分なりに調べて考えた結論を書いてみることにします。
ちなみに、これ考えた結果、軽速歩のときの脚の使い方で一部で言われているものは間違いだと個人的に思っているので、そっちで習った人は騙されたと思って試しにこっちの考え方でやってみてほしいなと。馬が変わる可能性があると思います。騙す気はないんだけど、騙されたならごめんなさい。でも、このタイミングで説明してるクラスタもちゃんとあるので正しいと思います。(後述)

まずは馬の速歩の動作と軽速歩時の人の動きはどうなるかを考えます。きれいな軽速歩を取れている適当な動画いくつかコマ送りで見比べて、書いてあることが正しいか確認してみてください。

【立ち上がる動作のときの馬の動き】
外方前肢および内方後肢が離地するタイミングに始まり、内方前肢および外方後肢が地面にほぼ垂直に立つタイミング(四肢がだいたい揃うタイミング)あたりに終わる。
【座る動作のときの馬の動き】
内方前肢および外方後肢が地面にほぼ垂直に立つ(四肢がだいたい揃う)タイミングあたりで立っている状態から、外方前肢および内方後肢が離地するタイミングより前に終わる。

次に、人の乗り方、扶助の考え方の基礎を考えます。
乗り方・扶助の大切な基礎は【馬と重心の動きが一致する】【馬の動きを扶(助)けるように動く/逆らうように動かない】です。
これに合わせて速歩のときの脚扶助を考えると、内方後肢が後ろに伸び切った状態~離地するタイミングが脇腹の横の動きの頂点になるので、そのタイミングから押し始め、肢をひきつけきって着地に移るところで逆の頂点に達するという波の動きになります。ですので、教科書的には内方姿勢を取っている時に【内方脚は内方後肢が離地するタイミングで行う】と書かれているはずです。(どの本のどこにかかれていたかは忘れたので発見したら書きますが、ちゃんとそういう記載を見たことがあります。)
正反撞の動画でも、トップクラスの人馬を正面から撮った動画を探してコマ送りで見れば、肢の動きに合わせて左右の鐙が交互に沈むのが見て取れるはずです。

さて、それらを考え合わせて軽速歩の乗り方に戻りましょう。
速歩において内方後肢が離地するタイミングとはすなわち、外方前肢が前出するタイミングです。つまり、立ち上がり始めるときですね。
この時に、立ち上がるということはつまり鐙に体重をかけるわけです。この体重をかけるときに、内方よりの重心にすることで、自然に内方脚が単独で圧迫されます。基本姿勢である踵を並行~やや下げるように乗るときに体重がしっかりかかることでふくらはぎの筋肉が張るのでより【圧迫】での扶助が入りやすくなります。
立ち上がり切るのは、ほぼ接地している内方前肢/外方後肢が馬体に対して垂直になる時でした。これは馬の脇腹がもっとも外寄りに振れるタイミングと一致します。
これによって、単に内方の鐙寄りに立つだけで充分な内方の推進脚の効果が得られるというわけです。また、この時ちょうど内方脚のほぼ真下に接地した内方前肢が来るので、馬にとっても安定性が高く動きやすくなることが予想されます。
逆に言うと、座るタイミングでは外方の脇腹が凹むタイミングに一致します。このタイミングでも内方に乗っていると馬の動きの邪魔になりますが、鞍の真ん中に戻ろうとすれば自然に内方脚寄りの状態が解除されます。
円運動であればこれによって内方の踏み込み(沈み込み)が促され、内方に対して外方の『伸び』がよくなるので、スムースな内方姿勢での運動に繋がります。

というわけで、軽速歩の正しい手前とは動作の中で自然に推進脚が入りやすく、のびのびとした動きを作りやすいタイミングであるから、が答えだと思います。
そしてそのポイントは、
外方後肢の離地のタイミングに合わせて内方の鐙寄りに立ち上がり
内方前肢が地面に垂直に立つときにその上に人の重心が乗るように立ちきって
馬の背を叩かないように静かに真ん中に座る
という三点になると思います。
きれいに安定して脚扶助をいないかのような騎手の動きにも関わらず、馬はのびのびとリラックスして、でもしっかりとした動きができているという動画をこのポイントに注意して見てみてください。

さて、さいごに『軽速歩のときの脚の使い方で一部で言われているもの』についてです。上記のように、正しい脚扶助の使い始めのタイミングは内方後肢が離地する瞬間(座っているところから立ち上がる動きに切り替わる時)で、使っててよいのは立ち上がりきるまでにかけてです。
しかし、一部で、『座る時に使う』『座っている時に使う』という説明をされているところがあります。これは、内方脚であれば馬の脇腹の動きに逆らうので間違えだと思います。外方脚であれば、内方姿勢を逆にしてしまう可能性が高いと思います。
なぜその説明が出てきたかには2つほど可能性を考えています。一つは『立っている時に脚を動かそうとするとバランスを崩すから座っている時に使う』もう一つは『立ち上がろうとする直前、座っている時に使い始めるという正しい説明が座っている時に使うという受け売りで勘違いされていった』のだと思います。
『立っている時に脚を動かそうとするとバランスを崩すから座っている時に使う』というのは、座っている時のほうが安定性が高いので脚操作をしやすいという意味では間違えではありません。実際に部班において軽速歩での運動中に巻乗りを指示されたときは、特段の指示がなければ軽速歩をやめる事になっていますね。これは小さい動きをするには軽速歩のまま行うのが難しいからです。ただしこれは二歩に一歩の内方脚しか使えない、外方脚の抑えを効かせにくいからであり、座っている時に適当に脚で刺激すればいいというわけではないと思います。
もう一つの『立ち上がろうとする直前、座っている時に使い始めるという正しい説明が座っている時に使うという受け売りで勘違いされていった』というのは書いたそのままで、説明の通り、離地の瞬間が使い始め=立ち上がろうとする時なので、座っている時で合っています。ただ、座っている時間は座ってから立ち上がるまでの少しの間があるので、『座りきった瞬間』なのか『座り終えて立ち上がる瞬間』なのかで大きく馬の動きが変わります。なぜ後者のタイミングが正しいと考えるかは上に説明したとおりです。

軽速歩一つとっても、それなりに乗れている人の中でも意見が分かれたり、乗り方が違ったりしています。では、どれが正しいのか、どんな説明がつけられるのか、そういうのを考えるのが好きで、そういうのをもとに自分の動作を磨いて実際の馬への影響を観察するというやり方での馬術を気に入ってやっています。
自分より上手い人はそれはもうたくさんいるので、この考え方が間違いである、説明付けが不十分である可能性は十分ありながらも、すくなくとも今の所これが一番辻褄が合っていて実態としても効果があると思っていますので、軽速歩で客の使い方がわからない、馬の動きの質が上がらないという人はぜひお試しください。

余談ですが、同じ感覚で左右の踏み分けをすることで速歩の正反撞、速歩の2pointで馬の動きを作ることができます。外から見てほとんどわからない動きの脚扶助できちんと馬を動かすことができ、なおかつ馬の動きに逆らわずに助けるので馬を緊張させすぎず、馬術の大切な要素であるリラックスを保つことができます。
単に馬を楽にさせるだけではなく、大きな動きを作り、背中の動きを楽にさせ、人が扶助のタイミングを学べるような軽速歩がこれだと考えています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?