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冬のひまわり🌻(第3話)

ジージージー。福さん!福さん!応答願います。

外でタオルを干していた福田は、トランシーバーで呼ばれていることに気づいて答えた。

「はい。福田です」

「福さん。今どこですか?すぐ風呂場に来てください」
イケメン佐藤の声だ!

「今、外です」
福田は答えた。

「福さん!湯舟で粗相をした人が居ます!」
「了解!」
と、福田は干しかけていたタオルを置いて、風呂場へと急いだ。

階段を駆け上がり風呂場に着くと、フロント係のイケメン佐藤が待ってましたとばかりに、福田に駆け寄ってきた。

「福さん!大変スよ!炭酸泉で粗相した人が居るみたいです。ブツがぷかぷか浮いていて、それはビニールにいれたんスが、お湯を抜いて塩素で消毒しないと!真田さんには報告しました!俺も手伝うっス!」

真田とは社員の1人だ。なんでも、まず社員に報告して指示を仰がねばならないのは世の常だ。報・連・相!は仕事の基本の基!
報告・連絡・相談だ。

「おお!ブツの始末ありがとう。お湯は抜いた?」
と、福田はやれやれの表情で答えた。
温泉の暖かさに気持ちよくなって、粗相をするお客様はたまに居る。その都度、消毒して洗わなければいけない。サルモネラ菌などが出ては、風呂屋は死活問題だからだ。だから温泉だとは言っても、時間毎に風呂のお湯を取って、薬で塩素の濃度を調べるのだ。
それは、概ね風呂番の仕事の一つだ。
小さなケースにあちこちの風呂のお湯を汲んでいる風呂番を見ることもあると思うが、大事な作業の一つである。

炭酸泉は温まるので、人気の風呂の一つだ。炭酸泉は血管を広げる作用があるらしく、そのために温まるらしい。

福田と佐藤の2人は、デッキブラシで塩素を使ってゴシゴシこする。
一通りブラシで擦って流すと、社員の真田さんに報告してお湯を入れてもらう。

「佐藤君。ありがとう。助かったよ」

福田は礼を言ってジュースを奢った。
けれど、だいぶ時間をくってしまった。

日帰り温泉は数分単位でタイムスケジュールが決まっているから、結構重労働なのだ。

と、外へと行く扉へと向かっていると、扉から入ってくる人が居た。

今日の女子の風呂番の有本 泉であった。
泉ちゃんはロン毛で目がぱっちりの美人さんだ。フロントにいるのが相応しいくらいに美人さんだが、本人は風呂番が好きでいつも風呂番を希望していた。
泉ちゃんは24歳でフリーターだ。

「福さん!大変でしたね?タオル干しておきました!」

性格もすこぶる良く、男女問わず皆んなの人気者だった。まさに明るくひまわりのような子だった。

つづく。

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