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器だけが

そこに器だけがあった。男がいた。
器の中には、死んでもう動かない魂が横たわっていた。
男はそれを墓に埋めるでも弱りかけていた頃に病院に連れて行くでもなく、ただ器の中にそれを抱えて時だけが経過していた。死後硬直しているそれはもうかつての魂ではないようだった。
それは、魂の遺体遺棄という罪であった。

男はもう動かないそれにジョーロで水をやった。
金を沢山出しさえすれば手に入るジョーロで、ありったけの水をやった。(feat.何か変わるかもしれないと思った)
でも、もうそれは動かなかった。
そうして、時間だけがまた過ぎて行った。

かつて魂にプログラミングされていた「何者かになりたい」というコードだけが 遺された男の脳に残され、そのコードだけが空虚に男を呪いのように動かしていた。男は今己がいる場所がわからなかった。
何をしても、そこには冷えた器があるだけだった。

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