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[アイロボ]2章4 アイロボ後半4

「じゃな、小僧。おまえはおまえで頑張っていけ」
男はそう言ってその場をあとにした。
僕は何を頑張ればよいのだろうか?
疑問に思いながらも次の客を待つ。
その時、1人の男が僕の目の前に座った。
黒のスラックスに濃い茶の厚手のパーカーに手を突っ込み黒のニットの帽子を被っている。
中肉中贅、短髪で50歳くらいだろうか?
男は座ると僕をみる目線は何処か鋭く僕をみたまま微動だにしない。
男の足元はスニーカーだった。
「何か?」
僕がそういうと男は僕の肩を掴んだ。
僕の知り合いだろうか?
僕は記憶を辿る。
しかし男の記憶はない。
前の雇い主の繋がりだろうか?
その記憶は消えてるから知っててもわからない。

男の肩越しによしさんの姿をみつけた。
僕が立ち上がろうとするとその男に肩を押さえられ男が耳元で囁いた。
「アイロボ48だろ?」
僕は咄嗟に男の手を掴み逃げる体制を取る。
男も武道に長けているらしく僕の手を掴むと後ろに締め上げ身動きが取れなくなってしまった。
「おい。何してる」
よしさんが叫んだ。
その事に驚いて通行人が足を止めた。
「離せよ」
人が集まりだしたのをみると男は腕をほどいた。
「おまえ、そうすけに何のようだ?仕事の邪魔してもらっちゃこっちも困るんだよ」
よしさんが凄むと男は素早く去っていった。
「そうすけ大丈夫か?」
「うん。僕は大丈夫」
「何があった?」
「あの男は僕をみると突然締め上げたんだ。僕の正体も知っている」

「前の雇い主か?」
「わからない」
僕はあえて言葉を濁した。
「まぁいい。とりあえずおまえは狙われているようだ。この場を離れよう」
そう言って荷物を片付け始める。
「僕のせいでごめんなさい」
「まぁ気にするな。今日の分は稼いだからな」
そう言って僕達は小屋まで戻った。
まだ日は高い。

よしさんは、荷物を置くと何処かに歩き出した。
よしさんについていく。
だいぶ歩いてついた先は、新宿御苑の男のとこだった。
よしさんは、男に何か問いかけそして何かを探すように荷物を漁り始めた。
「これ読んでみな」
そう渡された新聞は、かなり古いものだった。
「それおまえだろう?」
それは小さな記事だった。
僕がロボットとして生まれた年の時のある記事だった。
よしさんは確認するかのように僕に目線を送る。
僕が頷くとよしさんは更に質問を続けた。
「こいつ追われてるみたいなんだ。なんか情報はないか?」
「どんな格好だった?」
よしさんは、男に背格好や特徴を説明する。
「わかった。2日時間をくれ」

それだけ言うと男はのそりの小屋の奥に入っていった。
よしさんと僕はその場をあとにする。
「あの人はあーやって情報を売って生きているのさ」
よしさんは言った。
あんな風に人目を避けている理由がわかった気がした。
「なぁおまえに何があった」
「僕にもわからないです。多分前の雇い主との間に何かあったんです」
「そうか、とりあえず情報を待つしかないな」
よしさんと西口に戻る。
途中で稼いだ金で牛丼をテイクアウトする。
「兄ちゃん、つゆだくでご飯サービス頼むよー」
「はぁ~」
今風の若い兄ちゃんはそう答えるとのろのろと作業を始めた。
「最近の若いのには覇気がねぇな」
よしさんは、つぶやいた。
若い男は無言で商品を渡す。

「全く、教育がなってね」
よしさんは受け取るとプリプリしながら西口向かった。
公園のベンチに座ると大きな口をあけてガツガツと牛丼を食べ始めた。
「うめぇーな」
豪快に食べる姿をみていると僕までそれを食べたくなった。
「おまえも食べるか?」
そう言って食べさせようとするか直前で取り上げられた。
「あげないよ」
そうおどける姿は何処か子供みたいだ。
そうしている間に日が沈み辺りが夕暮れの色に染まった。
足早に帰るサラリーマン達が足をそろえ帰路に着く。
皆同じように疲れたような顔をしている。
「はじめはさ、あくせく働いて皆疲れた顔をして何が楽しいんだろうって思ったよ」
よしさんは突然に語り出した。
「俺も働いていた時はそうだった。毎日満員電車に揺られて忙しく働き回って帰りの電車で同じような顔をしてたさ。そんな毎日を送ってると俺はどうしてここで働いているんだろうって気になるんだよ」

「医者だったんですよね?」
「聞いたのかい?そうだよ。俺は医者だった。だけど俺は大病院の歯車でしかなかったんだ。その辺のサラリーマンと一緒さ」
「…」
「だから俺は毎日歯車のように働いて毎日あの病院に向かうのさ。疲れた顔した奴らが乗る帰りの電車で俺何やってるんだろうって思ってさ。何もかも捨てたくなる。たまにみる野良猫をみると俺も自由になりたいと思ったものさ」
よしさんは、思い出しながら苦笑いを浮かべる。
「でもな、実際にそうなってみると自由とは引き換えに無くしたものも沢山あったんだよな。わかるか?そうすけ」

僕は首を振った。
僕に失うものなどないから…。
「そうだよな。おまえにはわからないよな。俺も失うものなど何もない、そう思ってた。だけどよ、違うんだ。俺にも色々大切なものがあったんだよ」
よしさんは、寂しそうにそういった。
「ここで働く奴らもきっと大切なものがあるのさ。失いたくないものがある。それを守るために疲れるまで働くのさ。俺はさ…」
そこまでいうと沈黙になった。
「その大切なものを捨てちまったのさ」
遠くを見つめる先には何があるんだろう。

よしさんが大切にしていたものは何だったのだろう?
それが何か僕にもわからない。
よしさんは、そのまま押し黙ってしまった。
普段は陽気にしているよしさん。
だけど、やはり何かを抱えて生きている。
その重みは僕にはわからない。
ただ、僕の雇い主もよしさんと同じように心の内を話す事があった。
ロボットである僕に弱音をはきやすいのかもしれない。

「よしさん」
急に喋り出した僕によしさんは目線を向ける。
「僕の話をきいて貰えますか?」
どうしてかはわからない。
僕は急に自分の話をしたくなった。
今までは雇い主の手前自分の事を話す事はなかった。
だけど、よしさんがはじめて心の内を話してくれた事に僕は心を開いていたのかもしれない。
そっと温かな視線を向けるよしさんに僕は語り始めた。

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