[アイロボ]1章2 アイロボ2


チュン

チュン、チュン

おぃ

そうすけ

ゴン


僕は痛みと共に目を覚ました。
僕が見上げると目の前には、男がいた。
確かよしさんって名前だった筈だ。
「いつまで寝てる。起きるぞ」
そういって僕の手を取り起こした。
眩しい程に辺りは明るく周りには雀がいる。
そうか、ここは外だった。
眩しすぎる。
家の中で過ごしていた僕には眩しすぎる光量だった。
僕は時計を探してみると6時だった。
「早くないですか?」
「ホームレスの朝は早いんだ」
そういってよしさんは、噴水の水で顔を洗っていた。
如何にも冷たそうだった。
そのまま髭を剃るとますますハンサムなよしさんの顔が現れた。
「どうした?」
そういって僕に顔を傾けるよしさん。
二重で切れ長の目線にドキッとさせられた。

よしさんは、剃った髭を薄汚れたタオルで拭うと手際よく自分の小屋を纏めはじめた。
「自分のは自分でやるんだぞ」
そういって僕もよしさんの真似をして荷物を纏めはじめた。
纏めた荷物は人目つかない所に移動してよしさんはある場所に向かった。
高層ビルを抜け大きな広場に彫刻があり円形のその広場は何かエネルギーを発しているように感じた。
「どうかしたか?」
よしさんが振り向く。
「なんかエネルギーのようなものを感じるんです」
僕は思った事を口にした。
「へぇ~。おまえそんな事も感じるのか」
「なんかピリピリとするんです」
「昔は、ここに浄水場があったらしいからな。このビルが建てられた時、人が死んでいる。そうすけには、何か感じるのかもな」
よしさんの言葉に僕は、そのビルを見上げた。
2つのビルが左右同じ様に作られている。
ビルの窓や複雑な頂上までもが左右対照になっている。


僕は、そのビルの情報を頭のデータから集めた。
そのビルは都庁のようだ。
日本の首都である東京の最高機関。
そのビルの下には、ホームレスがいる。
その現状が僕は不思議だった。
都庁にちらほら出勤しているサラリーマンがいる。
心なしかインテリで真面目そうに見える。
きっと勝手な思い込みなのに。
きっとこのビルは人の人生を左右する事が決められている筈だ。
よしさんに連れられてさっきいた公園より更に広い公園に連れてこられた。何人か人が集まっている。
「よぉ、よしさん」
そうよしさんに問いかけてくる人がいた。
70歳くらいの頭に白髪の混じったおじいさんだった。
小太りで浮かんだ笑みで愉快なおじいさんという印象をうけた。


「今日も冷えるね」
そういったあと後ろにいる僕に気付いたようだ。
「そいつは?」
警戒するように僕に視線を移した。
「新入りさ。そうすけっていうんだ。仲良くやってくれ」
よしさんがそういうとおじいさんは警戒を解いて握手を求めてきた。
「源さん。こいつは、ロボットで昨日俺が名前をつけたのさ。息子みたいでいいだろう」
「おまえ、ロボットか」
源さんが、よしさんと同じ事を呟きさわり始めた。
「よく出来てるな。俺がホームレスになる前は立つ事も出来なかったのに」
いつか聞いたフレーズだ。
「源さんは、俺がホームレスになる前からここにいたんだ」
そういって僕に紹介した。
「だてに長く生きてないさ」
得意げな源さん。
何処かよしさんに雰囲気が似ている。


源さんの朗らかさとよしさんの豪快さは、2人がホームレスだと忘れさせる。
「よしさん、今夜は炊き出しだってな」
「そうみたいですね。今日みたいに冷える日は有り難い」
「じゃ俺は、ひと仕事してくるよ」
そういって源さんは、何やら大きな荷物を引きずりながら何処かにいってしまった。
「あれは、空き缶さ。源さんはあれを売って生きているのさ」
聞きもしないのによしさんは、そう答えた。
何処か悲しい顔をして。
よしさんは更に歩みを進めるとホームレスらしき人達が群れていた。
歩いているとよしさんの顔見知りらしい人が次々によしさんに声をかけてくる。
よしさんは、知り合いが多いらしい。
親しみやすいんだろう。
よしさんは、一通り挨拶を済ませると目的地についたようだ。
そこには、2人おばさんがいて何か配っているようだった。
よく見るとコンビニのお弁当や総菜の余りのようなものを配っていた。
「あら、よしさん」


よしさんに気付いたおばさんが、よしさんに声をかけてきた。
そのおばさんのよしさんを見る目は何処かキラキラしていた。
「今日も冷えるね。2人分お願いね」
そう言ってよしさんは、おばさんにウインクした。
その行動におばさんは、少女のような照れたような表情になり僕に視線を移した。
「あいよ。新入りかい?」
「昨日みかけてな」
「そうかい、そうかい。若いのに大変だね」
「そうだろ。そうだ、厚手の服はないかい?」
「ちょっと待っておくれ」
そういっておばさんは、紺のダッフルコートを手渡した。
「あんた、頑張りなよ」
そう労う姿は、近所のおばちゃんのようだった。
「ありがとうな。じゃまた来るよ」
そうよしさんがいうとおばさんは、名残惜しそうに手を降った。


「よし、これでそうすけも大丈夫だろ?」
「僕は、元々大丈夫ですよ。温度を感じても寒さで風邪をひくなんてないですから」
「そんな薄着じゃ不自然だろ?それに人間と思われていた方が何かと便利だろ?」
そういって弁当を持ち上げよしさんはウインクをした。
それはよしさんの癖らしい。
なんだか僕までクラクラした。
「でも源さんには、ロボットって」
「源さんは大丈夫さ」
何を根拠に言ったのかわからないが、とりあえず頷く。
「じゃ俺達もひと仕事してくるかな」
そういって1つ弁当を食べ終えると何処か茂みからこれまた使い古されたバックを取り出した。
それを手にしたよしさんは、意気揚々と駅の方に向かった。
だいぶ出勤してるサラリーマンが増え、よしさんをみて明らかに避けてる奴らもいた。
よしさんは、そんな事お構いなく、目的地に突き進み、まるで自分の陣地とばかりに駅前の人通りが一番多い場所にバックをおろし中のものを出しはじめた。


黒い墨で汚れた木の台と黒く汚れた布。
大きさの違うブラシ数本とスポンジを取り出し準備を整えると早速一人目のお客が現れた。
よしさんは、靴磨きを生業にしているようだ。
僕は、少し距離を置いて斜め後ろからその様子をみていた。
はじめのお客は、30歳前半の中肉中贅で紺のスーツに落ち着いた黄色と茶の中間の色のようなネクタイを締めていた。
褐色に焼けた肌と優しさと爽やかさを持ち合わせたような顔をしていた。「今日も冷えるね」
よしさんは、世間話を口にした。
「今夜は、雪かもしれないってさ」
そのお客が言った。
「こんな日は、早く帰りたいもんだね」
「温めたこれでクイッとやりたいもんですな」
よしさんは、そういいながらお猪口をあける仕草をした。
「そりゃいい」
「お客さん、関西の人かい」

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