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療育にまつわる「からだ」へのまなざしvol.16

オンラインでのバオバヴカフェも3回目。世の中も、少しずつ、元に戻る……ふりをしているようで、実は、なんだか不安を抱えたまま、頑張ろうとしている、いや頑張らないと…という大人の様子が、子どもにも、じわりじわりと浸透しているような、現場の感覚や事例をシェア。
そして、前回出た「母性にただのり」という言葉についても、シェア。「療育」をはじめ、「育」環境には、母性的要素が、他のジャンルに比べて、求められることが多いと思うし、その中でも、「療育」という、まだまだ未開拓なことが多いこの領域において、「母性的」「まなざし」は、可能性が大いにあるとは思う。ただ、「母性的」の内実は、そもそも「母」なるものが、おおいにぐらついている今、より現場で起きていることから、見据えて、深めていきたいところ。
今回、リーディング内容が、おおいにそのヒントになるものだったので、以下、参照されたい。「療育にまつわるからだへのまなざし」を鍛えることで、子ども達の、「おはよう」と起きる動作さえも、療育と化する可能性があるということに、つながるだろうか。
そういう「まなざし」を深める場として、このカフェを行なっているのだと、改めて実感の今回でした。次回は、7/16。

(以下、文責:花沙)
2020年6月25日 バオバブカフェ
□ 前回のバオバブカフェで出てきた言葉「母性にただのり」という言葉について。現代においてもなお、多くの家庭で、育児の中心となっているのが母親である。子どもになんらかの障がいがあった場合、母親への育児負担が増大してしまう。心理的にも、物理的にも、母親は膨大なエネルギーが必要となってくる・・。状況に追い詰められる母親・・。そんな風にとらえがちであるが(そのような側面はあるにせよ)、母親を「被害者」としてだけ捉えると、そこから先の思考がストップしてしまう感覚もある。もっと違う角度から、母性・女性性、そして療育ということを考えていくと新しい地平が見えてくるかもしれない。療育の担い手には、その場を察知する力、感情を読み取る力、共感する力、選択肢を示して提案する力など、スピーディにかつ丁寧に他者と向き合う力が必要となってくるからだ。
 
□ 鯨岡聡編「<共に生きる場>の発達臨床」ミネルバ書房2002
第3章 「いちごの会」を組織して(原 広治)p94まで
 
<あらすじ>
 教育者であり、障碍のある子の保護者でもある著者は、子どもが通園する保育園で保護者同士が語り合うことのできる場「いちごの会」を作った。そこに集う保護者の子たちには、障碍があった。主任保育士も参加してくれていた。様々な困難が待ち受ける育児のなか、どうしたら「地域で普通に暮らしていけるか」という願いをかなえるために、気持ちを共有したり、工夫の方法を話し合ったりした。
 そのうち、子どもやその家族のためのミニ療育活動の場を設けることにし(月1回)、「いちごの会」を組織化していった。療育活動のスタッフをすべてボランティアで募り、地域の保育士、保健師、医師、作業療法士、言語聴覚士なども集まってくれた。月1回で行われるこの活動は、子どもたちに何かを教え込む場ではなく、「できるーできない」に執着せずに、子どもたちの誰もが参加でき、楽しめる場を目指した。その場で、スタッフや親たちが交流することで、お互いが顔見知りになり、お互いの情報も共有することで、“地域で安心して暮らしていける”という安心感を得る場を、全員で参画していくことになった。活動内容は、全員が楽しめるもので、かつ暮らしに直結しているものとして、手打ちうどん、紙すき、クッキーづくりなどを主体とした。
 
<感想>
 改めて療育に対する視点を見つめなおす章であると思う。療育を、「子どもを治療する」という視点だけで捉えると、発展的な活動にはつながりにくい。子どもたちは、地域で暮らしていく存在である。地域で安心して暮らしていくにはどうしたらいいのか、という視点から「いちごの会」は進化していく。
地域の人々に、子どもたち一人一人の特性を知ってもらう機会としても、月1回のミニ療育の会は効果的であるといえる。子どもの乳児の時代を知っている保健師が、現在の子どもの担任と話をするなど、縦横の繋がりが芽生えていく。療育とは、子どもになにか施すというよりも、環境としての周囲の大人たちが、子ども達の多様な特性を理解したり、対応を絶え間なく勉強していくことを意味するのではないか、と思わされる。
手打ちうどんや、クッキーづくりの活動が、どうして療育になるかというと、療育的な視点を持ち合わせた大人たちが周囲にいることで、その活動を経験する子どもたちの「経験の質」が格段に違ってくるということだろう。大人たちは、その子の発達段階や特性への理解を深めていくことで、言葉かけを工夫したり、挑戦する内容を段階的にして、スモールステップで一つずつこなしていくように促したりできるだろう。感情のコントロールに困りを抱えている子の場合であれば、先に見通しを伝えたり、それでも感情が崩れたときには、クールダウンをする場に連れて行ったりなどできるだろう。そういう、ささやかで重要な工夫を重ねていくことで、子どもたちは周囲の大人を信頼し、さらに地域への信頼感へと繋がるのではないかと思った。
 

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