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Episode. 0

女性用風俗で、はじめて男の人を買った。

Twitterで見てたその人と初めて会うまでのこと。


実は5年前の2016年から知っていた。

どうやら5年というのはけっこう長い部類らしい。





「3.2.1、イけ」



この頃、この言葉で女の子が獣のように声をあげてのたうち回る、カウントダウン動画で大バズりしていた。




教祖と名乗る怪しい人。


信じられないけど、信じてみたい。
興味が湧いてしまった。




中高校生から性的なものに興味はあったけど、それを良しとはしない家庭で育った。



ずっと会ってみたかったけど
学生の頃、親の金で会いに行くのはあまり褒められたものじゃないなと眺めているだけだった。(後から思えばこれは会わないための言い訳だ)


時は経って社会人になったけど、寝て起きて50円の具なしパスタを食べて働く、家と会社の往復だけの生活をしてボロ雑巾のようになっていた。


はるさんの方はというと、定期的にTwitterが凍結してアカウントがわからなくなっていた。



でも性的な悩みはずっと抱えていて、またTwitterで見かけて。


転職して、仕事に慣れたら依頼しようと思った。


でも会いたくなってDMしたのは転職したその月だった。




勇気が出なくて5年経った。

知らない人と会うのは怖かったし、脱ぐなんてもっと怖い。

気づいたら乳母制度※はなくなっていたし、彼女らのTwitterアカウントも消えていた。胡散臭いセックスカウンセラーを信用しきるまでの何かはなかった。 

※はるさんには乳母という女の子の囲いがいた。
はるさんをサポートして、周りに宣伝してくれる女の子たちだ。
自分とそんなに変わらない女の子から提供されるはるさん像には不思議な安心感があった。



その頃、はるさんはスペースをやるようになった。


スペースとはTwitterがリリースした音声配信だ。

参加すると、リスナーとして聞くことができるし、承認されればスピーカーとして一緒に話すこともできる。


スペースでは、リスナーの相談に乗ったり、テーマについて話したりしていた。


・ハプパーはクソ
・アングラには信じられないくらい技術が上手くて洗脳してくる輩がいるから気をつけろ
・住所言うからオフパコしよう(これは行くか迷った)
・今までの変わった依頼
・刑務所の話


こんな内容を覚えている。

どの話も聞き応えがあって面白いからラジオ代わりに聞いていた。


ある日、依頼したことのある女の子を呼ぶ回があった。

「すごい優しい。SM界隈/裏垢界隈の人なんていっぱいいるけど、はじめに会うならはるさんにした方がいいよ!」



直接喋ったわけではないけれど。


背中を押してくれたのは知らない女の子だった。



依頼では名前、年齢、性癖、願望と他撮りの写真を送る。

性癖なんてない、が正直なところだけどそういう人と話すことないとか言われそうだから捻り出した。

願望もイってみたいです、それだけだったけど、その依頼にはうんざりしてそうだから、その原因になってるであろう性格面の悩みも絡めてみた。


5年間傍観して分かった「嫌いそうな人」を削ぎ落として、極力害のなさそうな人を装って依頼した。

依頼前に断られるのだけは勘弁だったし。


おそらく合わない人は本気で切る人なんだろうということは予想がついていたから。





最後に写真を選ぶ。


元々写真撮られるのが嫌いで、今もそんなに得意ではないので写真が少ない。

最近、ノーマルカメラでかわいい写真を撮ってもらってよかった。
目一杯お洒落して、バーでシャンパン飲みながらシャインマスカットをぱくついてる写真だ。


仲の良い友達が撮ってくれた写真は、表情が良い。


盛れすぎてるから、迷わず送った割にちょっと後悔した。




はじめて送ったDMには、絵文字の少ない定型文が返ってきた。




依頼の日程は、ちょうど1ヶ月後に決まった。

会う日が近づいてくると期待と緊張でドキドキした。



当日はいつもより時間をかけてメイクして、時間をかけすぎて変になったりした。


財布に20000円の依頼料と交通費、ホテル代を入れる。

きちんとした人「感」を演出したくて、封筒に入れるか迷ったけど、残り1枚の封筒を見て辞めてしまった。


きっとそんな小手先が通用する人ではない。


キャッシュレスが浸透してから、万札を持ち歩くことはあまりなかった。(1年前2万円が入った財布を無くしたから余計に気をつけていた)


財布に入れた35000円が酷く重く感じた。




なんばについて、OCATの前の動く歩道の辺りをウロウロしてる時LINEがきた。


どうやら体調が悪いらしい。
そのまま依頼するか、キャンセルするか、この時期だから確認したいということだった。


5年も勇気の出なかった人間が今日を逃したら、タイミングを失って依頼できなくなるかもしれない。

相談依頼に切り替えてでも、と粘ろうとしたけど、普通に心配だし、何かあった時のことを考えると結局諦めた。


キャンセルの旨を伝えると、すぐに事前振込の金額と、手数料と交通費を足しても十分余るくらいの金額が返金された。



「次回依頼する時は依頼料としてお使いください。
ご予約されない場合はご自由にお使いください。」



しっかりした人だな、とびっくりした。

でも、時間をかけてメイクして、服を選んで、ネイルして。その時間が報われた気がして嬉しかった。


その後、来月優先的に予約を取れるように予定を調整してくれた。私からだとまた3年経っちゃってたかもしれないからよかった。


予約したいと伝えて返ってきたのは、
もう絵文字の少ない定型文じゃなかったし、
さっきまでのお硬い敬語は少し柔らかくなっていた。





月が変わって、依頼日が来た。


駅で、改札の前の大きな柱にもたれかかって携帯を触ってる人。

写真通り、全く変わらない人だったから離れたところからでもすぐにわかった。真っ黒なダウンジャケットとパンツに、金髪がよく映える。

なまじ遠くから気づいて、目が合ってしまったから、どれくらい近づいた時に声を発すればいいのか迷った。


はじめまして。緊張で張り付いた笑顔でそう言った。

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