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第3話「外の世界へ」


ケンさんの家は、勝手に立てたので、公園から追い出されることになった。そしてケンさんはもう年なので、施設に入ることになった。猫は連れていけないと、ケンさんは ボクたちに泣きながら謝ってくれた。ケンさんと別れた夜、昼間はあんなに賑やかだった公園が、いつもにもましてひっそりと静まっていた。2 匹は、寝そべりながら楽しかった生活を思い、しょんぼりとしていた。

その時、物陰から黒い影が近づき、いきなり襲い掛かってきた。 タマはとっさに交わせたが、ガリが大きな腕に抑え込まれた。片耳が欠けた恐ろしい黒いオス猫だった。 ガリは、恐怖でぶるぶる震えていた。タマは恐ろしくて一刻も早く逃げ出したかったが、体 が固まって動くことができない。正体は、この公園を縄張りにしている片耳だった。今までは、ケンさんが 2 匹を守ってい てくれたので、片耳は近づくことができなかった。片耳はガリを押さえつけ、タマを睨んで 「挨拶もなく、俺の縄張りに勝手に入り込んで無事で済むと思っているのか。」とすごんで きた。「ごめんなさい。ごめんなさい。」と謝ることしかできなかった。 「いいや、許すことはできない。おまえたち覚悟しろよ。」と牙をむき、毛を逆立てた。もうだめだ。タマもガリもどうにもならないと一瞬あきらめ、目を閉じた。

その時「片耳、もうそのぐらいで許してあげな。」と声がした。 
そこには、美しいシャムのメス猫、銀がいた。 「その子たちは、まだ子供じゃないか。縄張りなんて、知らない子供だよ。そんな子供に目くじら立てて、怒るものじゃないよ。」 「うるさい。銀婆さんは引っ込んでいてくれ。俺の縄張りの問題だぞ。」
 「そうかい。」銀は目を細めて続けた。 「昔、私の縄張りに入り込んだ、子猫のことを忘れたのかい。その子、今どうしているだろうね。」片耳はその言葉にはっとして、抑えていた腕を緩めてしまった。その隙にガリは片耳の腕から抜け出した。銀は 2 匹を自分の体の後ろに隠して、片耳とにらみ合った。しばらくにらみ合っていたが「ちッ。」と一言つぶやいて、くるりと後ろを向いて片耳は去っていった。

「もう怖がらなくていいよ。話があるから、私に付いておいで。」と言って銀は、歩き出 した。公園から出て、川べりの草むらにやってきた。3 匹は、そこに腰をかけた。

タマもガリも、体がまだがくがくしていた。こんな怖い思いをしたのは生まれて初めてだっ た。「いいかい、これから話すことは、とても大切なことだからよくお聞きよ。」と銀が優しい声で続けた。「私たちは、ノラ猫と呼ばれる帰る家のない猫だけども、私はノラ猫と言う言葉が嫌いで自由猫と呼ぶことにしている。私たち自由猫は、大人になると縄張りを持つことになるのよ。縄張りは、それぞれが生きていくうえでどうしても必要な場所なの。この縄張りを守るためには、命がけで侵入者と戦うの。他の猫の縄張りを通るときは、決して縄張 りを荒らしたりしないように、きちんと挨拶しなければならない決まりがあるのよ。あの片耳はね、本当は襲い掛かるような乱暴者ではないの。見かけは恐ろし い姿をしているけどね。」と言って「フフフ・・・」と笑った。 「私が声をかけなくても、あなた達を痛めつけるようなことはなったと思う。縄張りがどれだけ大切かをしっかりわからせるために、怖がらせただけよ。今度、片耳に出会ったらきちんと挨拶して、許してもらいなさい。私たち、自由猫はお互いの縄張りを尊重しながら、助け合って生きているのよ。分かったかしら?あなた達も、自分たちの縄張りを探す旅に出ないとね。」 タマもガリも何度も頷いていた。こうして、タマとガリはケンさんとの思い出の公園を後にして外の世界へ出かけていくこ とになった。

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