『日本共産党の百年』読書ノート その13


外国諸党との関係、一国一前衛党論、不当美化論

『百年』では、次の記述が新たに追加されている。『八十年』にはない。

99年6月(の)中央委員会総会では、外国の諸政党との関係の発展のために、相手が保守的な党か革新的な党か、与党か野党かにかかわらず、双方に交流の関心がある場合、外国の諸政党との関係(にあたっては、)自主独立、対等平等、内部問題相互不干渉の原則にもとづいて関係を確立(することを)決めました。

『日本共産党の百年』p44s2

これらの原則は、外国の共産党との関係を律する基準として実践してきたものだが、今回、外国の諸政党との関係を律するわが党の側の一般的な基準としてあらためて位置づけるため中央委員会で確認したものだという。

…自主独立、対等平等、内部問題相互不干渉という3原則…は、1960年代に、外国の共産党との関係を律する基準として提起し、実践してきたものであって、ソ連、中国などの覇権主義、干渉主義とたたかううえで、きわめて積極的な意義をもってきました。…
この間、わが党は、国際活動のなかで、共産党以外の外国の諸政党とのあいだで、より広範な友好関係をむすんできました。
…この情勢のもとで、3原則を、外国の諸政党との関係を律するわが党の側の一般的な基準としてあらためて位置づけ、確認する…。

第21回大会・第4回中央委員会総会幹部会報告(1999.6.9)
https://www.jcp.or.jp/jcp/21th-kaigi/21-4tyuso/990612_4chuso_hokoku.html 

外国の政党との関係に関連するが、「一国一前衛党論」についてその考え方をそろそろ再整理してほしいところだ。
というのも、一国一前衛党論は、時として、3原則と衝突するからだ。
『七十年』には「一国一前衛党論」に触れているが、『八十年』と『百年』には記載がない。

…1984年に…「科学的社会主義の原則と一国一前衛党論――『併党』論を批判する」を発表した。
…「併党」論がもともと一国一前衛党の原則を前提としている各国共産党の自主独立、同権、内部問題不干渉という共産主義運動の原則を根底からくつがえす最悪の分裂主義…

『日本共産党の七十年』下p201

宮本議長は、科学的社会主義の世界観からも、戦術面からも一国一前衛党論は明白と述べる。

 …基本的考えは、当然科学的社会主義の世界観からみて、また労働者階級が団結しなければ解放闘争に勝利しえないという点からみても、一つの国の革命の責任を担うのはその国の一つの共産党、一つの科学的社会主義の党であるという考えであり、これは全体として明白…

1984.4.10 第1回全国協議会・宮本議長の冒頭発言(『前衛』1984.7臨時増刊 p19 )

中国共産党への反論。
史的唯物論の立場からも、一国一前衛党は当然で、複数前衛党や前衛党内の分派は容認できない、と主張する。
最近はこういう論調をほとんど見ないので該当箇所を略さず引用する。

史的唯物論にもとづいていうなら、共産党とは、資本主義社会における労働者階級の歴史的使命…の実現にむかって、労働者階級を階級として統一し、労働者階級の権力の確立、社会主義、共産主義の建設にいたるまで、この階級を指導する前衛部隊のことである。日本共産党も、もちろんそういう共産党であり、日本の労働者階級の前衛党である。
労働者階級の勝利の条件は、その団結である。そのためには、一国の労働者階級の前衛である共産党そのものが、単一のものに統合されていなければならないマルクス、エンゲルス、レーニンをつうじて、これは一貫した思想であり、原則である。「プロレタリアートは、権力獲得のための闘争において、組織のほかにどんな武器ももたない…プロレタリアートは、マルクス主義の諸原則による彼らの思想的統合が、幾百万の勤労者を一つの労働者階級に融合させる組織の物質的統一でうちかためられることによってのみ、不敗の勢力となることができるし、またかならずなるであろう」(レーニン「一歩前進、二歩後退」全集第7巻、445ページ)
単一の統一された共産党は、分派の存在を許さないということもまた、共産主義運動の未成熟だった過渡期のさまざまな試行的な対応を経てすでに確立されている「マルクス主義」=科学的社会主義の原則である。
科学的社会主義にもとづく一国の変革の路線は、客観的には一つであり、また、戦略や路線を異にする複数の前衛党や分派が存在したのでは、国内の労働者階級の団結がおぼつかないことはあきらかである。一国に複数の前衛党が存在すことを前提としたり、共産党とその分派組織の併存を容認したりするような態度は、われわれが「併党論」とよんで批判してきたものであり、「マルクス主義」や「弁証法的唯物論と史的唯物論」の立場に完全にそむくものである。

無署名論文「『人民日報』の論文が語るもの―共産党間の関係の原則にてらして」―(赤旗1986.9.14)・『世界政治』(1986.10 No726 p25)

宮本議長インタビュー。認識論からも複数前衛党論は誤りと指摘。

「複数前衛党」がありうるかどうかは、学説に関係します。弁証法的唯物論の哲学的な根拠は、人間は、客観的真理を認識することができる。哲学には不可知論というのがあります。真理はわからないという不可知論には私たちは立たない。客観的真理の認識は十分可能であって、労働者を解放せよ、そのために労働者は団結しようという真理が客観的に明白ならば、その具体的なアプローチのための集団をいくつもつくる必要はないのです。『共産党宣言』ができたときの共産主義者同盟の当時は、いまいうような一国一前衛党というような概念は成立していませんでしたが、この考えは、たくさんの思想闘争のなかで練り上げられていったのです。150年の学説の歴史のなかでは、そういう時期はありましたが、認識論の立場からみても真理は一つなのです。よく論ずれば、よく認識すれば一定の真実に接近できるという立場です。同じ方向なら分裂する必要はないというところから、私どもは認識論上も複数前衛党論というものはとらないんです。それは哲学的にも論理的にも矛盾しているからです。

宮本顕治「ソ連、東欧の事態について―科学的社会主義の立場」朝日新聞インタビュー詳報(『前衛』1990.6 p41)

なお、2000年の第22回党大会で規約改正により「前衛政党」という用語が削除された。その削除理由は"前衛は不屈性と先進性を意味するもの。誤解を受けないようにするため"である、
用語を使わないだけでその内容は継続するわけだから、この用語削除をもって一国一前衛党論がその意義を失うわけではなく、その意義は現在も継続していると思われる。
第22回党大会の規約改正部分については後述。

外国の政党との関係に関連してもうひとつ、「美化による干渉主義」についても再整理してほしいところ。
これも、時として、3原則と衝突することがあるからだ。
不当な美化論は『百年』、『八十年』(p260。記述内容は『百年』とほぼ同じ)、『七十年』で触れられている。

重大だったのは、(ソ連の「新しい思考」による)対米協調路線が、世界の平和・民主運動に…おしつけられたことでした。しかも、ソ連の影響を強めるのに役立つなら、その団体が国内でどんな役割をはたしていようと平気で美化する干渉主義と結びついていました。

『日本共産党の百年』p38s2

(87年10月に発表した)論文「日ソ両共産党関係を素描する ――十月革命70周年にあたって」…を発表し…80年の「社公合意」で右転落した社会党を、「進歩・革新」の党と不当に美化するソ連共産党の態度は、日本の運動への外部からの明白な覇権主義的干渉であると批判した。

『日本共産党の七十年』下p292

2022年に行われた欧州左翼諸党との一連の交流もこの3基準にもとづいたものなのだろうが、フランスでは、共産党のほかに「服従しないフランス」(LFI)とも会談している。LFIが「前衛党」を名乗っていないから、あるいは日本共産党としてLFIを「不当に美化」していないから問題ないということだろうか。
とりわけ、アジアの諸政党の与党との関係を結ぶにあたっては、不当に美化していないかの当該国の革命運動も考慮すべきであろうが、そのあたりについての論及を望みたいところである。

ドイモイ、社会主義市場経済

『百年』の「アジア外交の積極的展開」。
『八十年』の以下の記述が削られている。

…ベトナムは、86年から「ドイモイ」(刷新)をかかげ、中国は、92年から「社会主義市場経済」という、市場経済をつうじて社会主義への国づくりをすすめるとりくみをはじめていました。[日本共産]党は、交流のなかでも、「社会主義をめざす国」のあらたな探求に注目し…両党の指導部との対話をおこなってきました。

『日本共産党の八十年』pp312-313

2019年の8中総報告では、ベトナムやキューバに対して体制的な判断・評価は行わないとのことである。

ベトナムについては…「経済上・政治上の未解決の問題」を抱えつつも、社会主義の事業に対して「真剣さ、誠実さ」をもってのぞんでいることを確認してきました。核兵器禁止条約など国際政治の中心課題でも協力してきました。ベトナムが取り組んでいるドイモイ(刷新)の事業の成功を願う…。
キューバについては、長年にわたる米国の敵視政策のもとで自主的な国づくりの努力を続けてきたこと、核兵器廃絶で積極的役割を果たしていることを評価しています。…
なお、「社会主義をめざす新たな探究の開始」が、「二一世紀の世界史の重要な流れの一つ」とはみなせなくなるもとで、今後は、個々の国についての体制的な判断・評価はせず、事実にそくしてありのままに見ていくことにします。

2019.11.4 第27回大会第8回中央委員会総会・綱領一部改定案についての提案報告
https://www.jcp.or.jp/web_jcp/2019/11/post-88.html


つづく

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