生クリーム ハエ 粗大ゴミ 2

まだかまだかと心を躍らせていたら、スマホが震えた
[ もう少しで家着く!買ってくものある?]
サプライズされてるなんて思ってもないんだろうなとニヤニヤしながら返信を打つ
[ ないよ!!暑いだろうから部屋涼しくさせて待ってるー!気をつけて帰ってきてね]
こんなにドキドキするサプライズは始めてで、駆け足したくなる気分だった。

ドアの前で、キーケースから鍵を漁る金属音がする。
彼が帰ってきた!
とりあえずお出迎えは、クマのぬいぐるみに任せてテーブルにつき、様子をうかがうことにした。

「ただい…」
そして無言でプレゼントの写真を撮り始めた。
リアクションがいつもオーバーなのにこういう時に限ってノーリアクションの彼…それすらも愛おしいと思えた。
写真を満足いくまで撮りおわると、こちらに万遍の笑みを向けた。
「ありがとう」
と照れくさそうに言った。
「ケーキもあるんだよ!!!頑張ったんだ!」
彼は荷物を置きながら照れくさそうに
「ありがとう凄く嬉しい…プレゼントも開けていい?」
私が頷くと、彼は包みを開け始めた。プレゼントは時計
「あ、時計だ!!!これ欲しかったやつ!ありがとう!」
早速腕にはめ、私に何度も似合う?と聞く姿が可愛くて微笑ましかった
「ほら、時計似合うからケーキ食べよ!!紅茶も入れたし!」
「ありがとう。こんなに嬉しい誕生日初めてだよ…」
私はほっとした。なんだか自分が必要とされているようで嬉しかった。

その日はのんびり時間が過ぎていった
ケーキはおやつだったので、夕飯はピザとポテトとチキンをデリバリーし、お腹パンパンになるまで食べ、アイスとポップコーンを食べながらお互いがおすすめの映画を見た。
幸せで夏の暑さすらも、愛おしいと思うような時間だった。
次の日は仕事があるので、21時には解散し、彼は自分の家へと帰っていった。
彼の誕生日ということ以外は普段の日曜日だった。
彼が帰った後、眠かったので片づけは明日やろうと、寝る準備をして夢の中へすとんと落ちていった。

 次の日少しだるい体を起こし、SNSをチェックしていたら、彼からメッセージが入っていた。「昨日はありがとう」から始まっていた。こういうところも愛おしいんだよなとメッセージを開き、私は血の気が失せた。


昨日はありがとう。
とてもうれしい誕生日でした。
でも、僕はさみしさを感じました。
なんだか、誕生日をお祝いしてくれているというより、彼氏の誕生日を祝っている自分をたのしんでるんじゃないかって思って。
デートしてるときも、ペアリング買った時も、ペアネックレスをプレゼントしたときもそこに僕はいたのかな?
分からなくなったよ、いったん別れよう。
昨日もらった時計すごく気に入ってて、買い取るから請求してくれ。
いきなりでごめんだけど

あまりにも突然すぎる。
誰もこんなことになるなんて思っていないし、何よりも、話し合わずに別れると一人で決めた彼に腹が立ち、勢いで

わかった別れるよ、時計のお金はいらない部屋にある服とかは全部処分するから。合鍵は今日中にポストに入れといて

と返信した。確かに彼が言っていることはあるのかもしれない。ペアリングやペアネックレスもデートの時も写真を撮りSNSに載せて楽しんでいた。
私幸せなんだよってアピールしたかったのかもしれない。でも、彼を好きなことには変わりなかった。
悲しくて昨日の片づけをすることなく出勤した。
一日中ボーとしてしまい、今までにないほどミスを連発してしまった。
朝よりもどんよりと重い体を引きづり帰宅したら、台所に置きっぱなしにしていた生クリームのボールにコバエがたかっていた。
昨日の出来事すらも腐ってしまったようで、涙があふれだした。
コバエもびっくりするほどの勢いで泣いていて、玄関のチャイムが鳴ったことすら気づかなかったが、ドアがノックされ慌てて確認すると配達業者だった。うつむき気味にドアを開け玄関に用意しているハンコを素早く押し、荷物を引き取った。
何を頼んだかわからず開けると、彼がテレビ台はちゃんとしたのを買わなきゃと、ウッドボックスをテレビ台にしていた私にプレゼントしてきたのだ。
タイミングが悪いのかいいのかわからないけれど、彼に連絡する言い訳ができ少しうれしかった。

テレビ台が届いたんだけど、私の趣味じゃないから返品したいんだけど送っていい?

自分でも素直になれよと突っ込みを入れたかったが、プライドか何かが邪魔をして喧嘩を売っているようになった。その日には返信はなく、次の日に

そのまま使えば?自由にしていいよ

と返信がありブチぎれてそのまま粗大ごみ回収の連絡をしていた。
なんで私がゴミ代を払わなきゃいけないんだと思いながらも、彼の今までと違うそっけない態度にすっかり心が折れていた。
ビールを飲もうと冷蔵庫を開けると私と同じように孤独に佇む食べかけのケーキがいた。
片づけをしようと思ったが、なんだかさみしくて、休日まで生ごみ以外このままでいようと、脱ぎかけの部屋着もそのままにして一番幸せだった日を思い出しながらゆっくりと眠りについた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?