すぐには質問に答えない

私が会話において(特に指導において)最も大事にしていることの1つに、『すぐに質問に答えない』というのがある。

これはただ、解答を渋って焦らしている、というものではない。

人が誰かに質問するとき、その質問の言葉は、“極めて単純化された疑問の要旨”に過ぎないという風にわたしは思う。

しかしながら、疑問の要旨とは言いつつも、疑問の持つ本来の意味や意図はその要旨だけでは到底押しはかることができない。

例えば、
・なぜ相手はその質問をしてきたのか
・本当に答えが欲しいのか
・問題の本質は本当にここか
・その質問が生まれた背景は何か
・どの解像度の答えを知りたいのか
・前提知識はどれほどあるのか
・ゼロから生まれた質問か、ある程度議論してきた質問か
・相手は何を大切にする価値観なのか

パッと思いつくだけでも、要約された質問の背景にはこのような思惑が隠れている。

あなたは、要旨された質問の裏に隠されたこれだけの意図を、要旨された質問と相手の機微などの視覚情報や声色や口調などの聴覚情報の機微から正確に感じ取れるのだろうか。

感じ取れると自覚しているのなら、それはただのあなたの思い込みだろう。なぜなら、それは客観的な答え合わせを伴わない都合の良い思い込みから生まれた自信に過ぎない可能性が高い。

では、質問をされたらどうすればいいのか。

簡単だ。質問し返せばいい。

例えば、
「英語の勉強ってどうすればいいですか?」
と聞かれたら、
「あなたはこれまで英語をどう勉強してきましたか?」
と聞いてみる。そして、
「あなたはどう英語を勉強すれば成績が上がると思いますか?」
と聞いてみるのだ。

ここでもし、
「今まであまり勉強法を意識したことがなく、どう勉強していけばいいのか全くわからない。」
というのなら、手取り足取り指導したらいい。相手はまっさらなキャンバスだ。

しかし、「今までこういう意図でこういう勉強をしてきたけど上手くいかなかった。ネットでもいろいろ調てみたけど、どれも上手くできる気がしない。」と返ってきたら、手取り足取り教えるのではなく、その人の勉強のどの点は良くてどの点が悪かったのかを指摘して、その上で改善案のを提案するのがいいだろう。

同じ要約された質問でも、追い質問をすることで、相手の置かれている状況がこうもくっきりと輪郭化され、こうも返すべき答え方が変わる。

したがって、質問をされたときにすぐに質問を返すのはやめるべきだということだ。

最低1回、できれば相手の輪郭がはっきり見えるまで3回くらいは質問を質問で返してみる。

そうすることで、あなたの解答はより個別最適化されたものとなり、満足のいく解答を相手に与えることができるようになるだろう。


追記: 言うまでもないが、スピード感が求められる状況や、事務的な質問は例外であるということをいちおう断っておく。