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紙資源化計画2042:経産省が描いた幻想

 2024年、日本政府は次世代エネルギー政策として『紙資源化プロジェクト』を発表した。

 これは廃棄される紙をSAF(持続可能な航空燃料)、ゴム、プラスチックに変換するという壮大な計画で、メディアや市民の期待は高まった。しかし、シンガス技術に基づくこの計画は、紙をガス化する段階で莫大なエネルギーを必要とし、現実の技術は理論を裏切り続けた。

 シンガスはバイオマスから水素や一酸化炭素を生成し、燃料として利用できるものだ。しかし紙を高温で分解してガス化する過程は膨大なエネルギーを消費し、その収支はとても持続可能とは言えなかった。また、得られるシンガスの量も少なく、技術的には未完成であり、成果はほとんど見られなかった。それでも経産省は計画を推し進め、予算を要求し続けた。

 次に経産省は紙からゴムを作るという新たなプロジェクトに取り組んだ。紙に含まれるセルロースをゴム成分に変換するというものだが、こちらもエネルギーの消費が大きく、実験室には失敗の痕跡だけが積み上がっていった。政府は『日本の技術が世界を変える』と強調したが、現実的な進展はなく、他のエネルギー開発に割く予算は削られていった。

 2030年代、紙資源化プロジェクトは政治家たちにとって利権の温床となった。

 プロジェクトには次々と政治家が関与し、自らの地元に関連施設を誘致することで地元経済を活性化させようとした。彼らは『地域振興』『技術革新』という名目でさらなる予算を引き出し、その一部は支持基盤の強化に使われた。また、経産官僚たちもプロジェクトを自身の利益のために利用した。彼らは計画の進行に携わり、退職後には関連企業や団体に天下りすることで多額の報酬を得た。

『この計画は日本の未来を支えるものだ』との言葉の裏で、政治家や官僚たちは自らの利益を優先し、プロジェクトを利権化していった。シンガス技術やゴム生成のプロジェクトは次第に膨れ上がり、他の現実的なエネルギー開発は予算削減を余儀なくされた。政府は、『もう後には引けない』と感じ、さらに莫大な資金をつぎ込むという悪循環に陥っていった。

 そして2042年、日本は経済崩壊の時を迎えた。

 紙資源化プロジェクトに投入された数百兆円もの予算は成果を上げることなく、国家財政は破綻し、国民は深刻なエネルギー不足に苦しむこととなった。経産省は失敗の責任を他に転嫁しようとしたが、その代償はあまりに大きく、国民の生活は崩壊、日本の未来も共に燃え尽きた。

 かつて賑わった経産省のオフィスは閑散とし、机の上には山積みの紙資料が残されていた。『紙からエネルギーを生み出すなど幻想だったのか…』と呟く職員の声は誰にも届かず、日本の未来は紙と共に消え去ったのである。

武智倫太郎

付録:紙からSAFや、ゴム、プラスチックを作る方法

 紙からSAF、ブタジエンゴム、プラスチックを作ることは、エネルギー収支やコストを無視すれば理論的に可能です。ところが、ユーグレナからSAFを作るよりははるかに効率が良いとはいえ、それでもエネルギーの無駄が明白であり、このような非効率的なアプローチを取っているのは世界でも日本だけです。しかし、経済産業省の説明では『日本が世界に先駆けて取り組んでいる』という表現になっています。他の国が取り組まないのは、単に非合理的だからであることを示すため、以下にそのプロセスを説明します。

セルロースの分解:紙は主にセルロースという多糖類で構成されています。まず、セルロースを加水分解してグルコース(ブドウ糖)に分解します。これは酸または酵素を用いて行われます。

グルコースの発酵

エタノールの生産:グルコースを酵母などの微生物で発酵させてエタノールを生成します。

脂肪酸の生産:特定の微生物を用いてグルコースを脂肪酸や脂質に変換します。

エタノールからエチレンへ:得られたエタノールを脱水反応によりエチレンに変換します。これは酸触媒を用いて高温で行われます。

エチレンの利用

プラスチックの製造:エチレンを重合してポリエチレンなどのプラスチックを製造します。

ブタジエンの生成:エチレンを二量化してブテンにし、さらに脱水素化してブタジエンを得ます。

ブタジエンゴムの製造:ブタジエンを重合して合成ゴムであるブタジエンゴムを作ります。

脂肪酸からSAFの製造:脂肪酸を加水素化や精製することで、航空燃料として利用可能な炭化水素に変換します。

フィッシャー・トロプシュ合成:グルコースやバイオマスをガス化して一酸化炭素と水素の合成ガスを作り、フィッシャー・トロプシュ反応で液体炭化水素(SAF)を生成します。

 まとめると、紙のセルロースを化学的および生物学的プロセスで分解・変換することで、SAF、ブタジエンゴム、プラスチックといった材料を製造できます。ただし、これらのプロセスは通常、大量のエネルギーを必要とし、コストも高いため、実用化には課題があります。

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