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怒りの搬入手続き

当方たいへん気性が穏やか、近所の老婦人には毎朝会うときちんとご挨拶をいたしますし靴下だって一人で履けるハイスペック。夜はチューハイの2,3杯もあてがっておけばごきげんになるたいへん燃費のよろしい仕上がりになっていますよ。日々のメンテナンスは基本不要、必要に応じて月に1,2回くらい、サウナに行く必要があるんですが、なんと一人で行くことができますので、わざわざ連れて行く必要はありません。またその際は詫び石がわりにと、ととのった目つきでたまごボーロをみなさんにお配りするといった、とても手のかからない男の子として知られておりますけどね。はい、母親からも小さい時からとても手のかからない子だったと聞かされています。

各家庭でご愛玩いただくにはうってつけの動物となっておりますおれですので、滅多なことでは語気を荒げたりするような男ではないんですがね。

先日のことです。ある人から割と大きめの荷物を預かっておりまして、それをひとつ届けてもらえないかということで、おみこしに載せてエッサエッサと彼の自宅までお届けにあがったのです。都内にある大きなマンションですよ。立派なマンシオンですなあと思いつつも、はやくお届けにあがらねば!と思ってマンションに入ろうとしたら、警備の人から「大きな荷物を搬入するときは一度警備室で手続きをしてから、搬入用のエレベーターがありますんでそちらを使ってください」と言われたのです。なるほど丁寧にありがとうございますと頭をさげて、警備室で手続きをします。

入館するには帳票に名前を書いて、係の人にお渡しをしないといけないようです。この時点でただ荷物を届けるだけなのに、かなり煩雑な手続きをしなくちゃいけないんだなあと思いましたが、言われるがまま書いて係の人にお渡しします。

すると、係の人が言うわけです。「この館に入っていただくために、なにか身分を証明するものが必要なのですが、お持ちですか?」と。

なんで名前を書いて渡したのに身分証の提示まで求められないといけないんだ、荷物を届けにきただけなのにと少しムッとしましたが、防犯上の理由と考えるとそういうこともあるんでしょう。

普段ですとお財布の中に免許証を入れているのですが、たまたまこの日は持ち合わせておらず。その旨説明し、あっ名刺くらいでしたらあるんですが…と申し訳なさそうに答えました。

ところが、その係の人が不機嫌そうに言うんですね。「あ、お持ちでない。なるほど、名刺では身分が証明できませんよね。顔写真入りのものが必要なんです。今回は致し方ありませんが、次回からは必ず持ってきてくださいね」

この時点でおれはカッチーンときてしまい、え、なんかおれが悪いみたいな感じになってます?とつい言ってしまいました。この穏やかなおれがです。部屋では季節のお花なんかをシーズンごとに入れ替えて愛でているような男が、語気を荒げてしまったのです。今はフリージアを飾っています。

そもそも、おれはこの館に住む人からお願いをされて重い荷物を持ってここに来たわけで、普段仕事の関係で、たとえばイベントなんかの会場として施設を使わせていただく際なんかもこういう手続きを防災センターとかで踏むこともあるのですが、その際この手の手続きを懇切丁寧にきちんと踏んだうえで搬入をさせていただきます。施設を使わせていただく身なのですから、それは当然のことです。しかし、繰り返しになりますがおれはこの館に住む人からわざわざお願いをされてここに来ているんです。

本来であればだ!ようこそお越しくださいました、お話は伺っております、さぞ重たかったことでしょう、こんな裏口なんかで恐縮ですと言ってふくれ菓子の一つでも渡して、いや別に渡さなくてもいいけど気持ちよく迎えいれるものだろう。それをなんだお前は!名前を書かせて身分証まで求めて、挙句持ってないと知ればその態度かと。そもそもこの時間帯にこの部屋に搬入に来るのはわかっていることなのだから、住人と連携をとって調整して、その辺の段取りは済ませておけよと、こう思わざるを得なかったんです。もういっそのこと、荷物ここに置いていくからお前が持って届けろよこの重い荷物を!と。そう思ってしまったわけですね。

いや、わかるよ?昨今配達員のふりをして施設に侵入して犯罪を犯す人もいるから、そういう防犯上の対策をする必要があるという事情もよくわかる。すべての荷物を防災センターで引き受けて届ける人手がないのもよくわかる。でもそれってそっちの都合じゃん。これがせめて、「たいへん申し訳ありませんが、防犯上の理由で身分証のご提示をお願いしています。あっお持ちでない。当館ではこういったご協力を皆様にお願いをしています。次回はぜひご協力を」と一言断ってふくれ菓子のひとつでも手渡せば、いや別に渡さなくてもいいけど、おれだって「あ、そうなんですね、いやそういう対策をしなければいけない世の中なんですね、たいへんですねえ」と言って気持ちよく受け入れたものを。そういえばお前の手元に電話機があるな。それでもって今から住民に電話をかけて、こういう人が今こちらに見えていて、荷物のお届けがあるんですが…と確認をすれば、そもそも名前なんて書かなくても、身分証を渡さなくても済む話だろうが。その電話機はなんのためにあるんだおい!!!

…みたいな感じで早口で捲し立ててもよかったんですが、重い荷物を持っている身、はやく届けて責務を果たさねばなりませんでしたから、とはいえやっぱり納得がいかず、上記のように語気を荒げてしまったということです。

すると係の野郎、「いやいや、皆さん持ってきてますから(笑)」みたいな感じで鼻で笑うんですよ。おれの怒りはまさにプッチンプリン(食品表示上はプリンではなく洋生菓子)の底のつまみを折って流れ出てくるプッチンプリン(食品表示上はプリンではなく洋生菓子)のようにとめどなく押し寄せてきたわけです。答えになってないだろうが!配達員なんかは常に首からIDを提げてくるから、当然持っているだろう。だから快く提示してくれるんだろうが、結局それもお前の施設のルールの押し付けだからな!!!と思いましたが、何を言っても無駄なのでしょう。釈然としないまま荷物を届けます。

せめて、せめて何か一矢報いたいと思ったおれは荷物を届けた後、彼に「防災センターで身分証の提示を求められました」と一言、チクってやったわけです。すると、おれの説明があまりにも足りなさ過ぎて、この顛末が十分に伝わりきらず「あーね(笑)」と流されてしまいました。もうすべてがだめです。だからおれはここにこの不満を書き残しておきます。厄介!そんな感じです。


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