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酒と茶と、太陽と。

少し前に、お茶を飲みに行った。歳下の、けれどとても落ち着いた友人に呼ばれて。

「ひろさんとはゆっくり話してみたかったんです。なので是非、来てください。」

仕事柄、話を聞きたいと言われることはよくあるのだけれど、そう言われて話してみても、良い会になった試しはほとんどない。

Nui.の資金集めに奔走していた時分、アップルの元日本支社長の方に話を「聞いてもらえる」ことになった。会って早々に尋ねられたのは、「で?君の話を聞いてオレにどんなメリットあるの? 」当時、やばい、これはどうやら安易に考え過ぎていたぞと襟をピンと正したものです。今考えると、とても的を射た質問だったと思う。話を聞く側も聞かれる側も時間を無駄にしなくていいし、湿った傷を負わなくて済む。

さて、ともかく。

今回の誘いは、心踊った。何故かというと、まず一つ、その興味が私個人に向けられていたこと。株式会社Backpackers' Japanの代表としてではなく、おそらく彼は私個人に興味を持ってくれていた。そしていつだって、私は個人対個人で(たとえ相手が会社のスタッフだとしても)話をしたい。そしてもう一つは「茶」という今まで人生で経験したことのない、けれどとても興味があった分野で招待されたこと。

そう、お茶といっても、スタバでお茶しようぜ!の類のお茶ではなく、茶室に2人、主人と客という関係で佇むあのお茶である。

いささか戸惑いながら小さな戸を引き、頭をかがめて茶室へと入る。落ち着いた薄茶色の土壁。「茶と」と大書された掛け軸。椿。障子窓から陽が気持ちよく差し込み、茶の湯がぽこぽこと控えめな音と蒸気を立てている。

正座。対面。静寂。

改めて主人である友を見る。なんとなく会うのではなく、ちゃんと会うという新鮮さ。会うとはこういうことかと改めて言葉の意味を噛みしめる。音楽もなければもちろんお酒もない。ただ、そこで対面する人間が二人。

文字通り、緊張した。

「この茶室では、お願いがあります。一つの感覚に集中するときは、何か一つ、違う感覚を捨ててください。味わうときは目を閉じる、香りを楽しむ時は音を忘れる。」

まずは玉露。びっくりするほど甘い。目を閉じて味に集中すると、豊かな畑のイメージが頭をよぎる。土の力強さと、活き活きとした緑の勢い。

様々な茶と、時々一緒に出される美しくおいしいお菓子。そうやって目の前のお茶に感動し、その時々の感想を言い合う合間に、時折クリティカルな話題が交わされる。

「あなたは、これから会社をどうしていくんですか。」

「なんで、お茶をやろうと思ったんですか。」

あなたは、何を大事に、どこに向かって生きていくんですか。

全部で2時間半くらいだろうか。後半、夕陽が沈み辺りが暗くなる頃にはすっかり緊張が抜けていた。そして、お互いのことを以前よりもよく、知り合っていた。

酒は、背景を越える。

お互いが何歳で、どこの国出身で、何を職業としているのか。誰を想い、何を大切に生きているのか。そういった背景を見事にすっ飛ばして、お互いの距離を近づける。音楽もそう。きっと、暗いラウンジもそんな感じ。

「背景をすっ飛ばす」酒を武器に今まで色々な人と仲良くなってきたし、その効力を信じてラウンジを仕事にしている。それはそれでいい。

けれど、背景を飛び越えることに依存してはいけない気がする。きっと。

お茶では、酔えない。よって、背景をすっ飛ばせない。緊張感を持って人に相対し、氷が溶けていくように徐々にその人に近づいていく。体幹強めに自分を保ちながら、でもその人の背景に寄り添っていく。

時には優しく質問を投げかけ、時にはお互いを試すように話を挑んでいく。シラフだからこそ感じられる機微と、言葉の後ろにあるその人の背景。

楽しかった。美味しかった。そして意外と、疲れなかった。

というわけで、少し前置きが長くなってしまったけれどスリランカの南端の小さな町、Ahangamaに到着。宿はSunshine Stories。

https://www.instagram.com/sunshinestories/
http://sunshinestories.com

観光客もいないスリランカの外れの街。の、看板もない小さな道をすり抜けすり抜けしてやっとたどり着く小さな宿。一週間単位でしか予約を受け付けてないにも関わらず、2、3ヶ月先まで満室。

「Surf & Yoga Retreat」とこの宿が掲げるコンセプトは、世界中から集まった旅人達と毎日ヨガとサーフィンに勤しむ、というもの。「リトリート」という言葉の意味は避難・隠れ家。この言葉には私は受動的なイメージを持っていて、アーユルベーダやマッサージといった、何か「サービスを受ける」という印象が強かった。しかしここSunshinestoriesは逆。能動的な避難とでも言おうか。自分の身体を、自分で動かす。

私が一緒に滞在するメンバーは、スウェーデン、アメリカ、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、イギリスから来た13名。二組の夫婦と、一人旅の九人。

なぜお茶の話をしたかというと、そう、ここもノンアルコール。お茶ではなく、ココナッツウォーターだけど。旅中、アルコールなしで1週間という長い時間を特定の人と共に過ごすのは初めてのこと。

けれど、お茶の時に得た感覚が、私に少しの自信をくれる。

自由が好き。どこにいても、誰といても、何をしていても文句を言われず、嫌だったら去れる場所。それが若い私にとってのゲストハウスだった。

でも茶室も、Sunshinestoriesも然り、自由とは反対に空間と時間に縛られ、相対する人間に影響を受け続ける(ドミトリーだしね!)。

でも、そんな縛られた空間と時間によってのみ理解できる背景もあるはず。そしてその理解の先に見える未来や、新しい自分との出会いもきっとある、との期待を持っての滞在。新しい形の、地方の可能性。ここから一週間、どんな生活が待っているのでしょう。

ヨガのコーチEllenと、サーフィンのコーチMitch。

ホテルの未来を考える。toco./Nui./Len/CITANを手がけるBackpackers' Japan代表、本間貴裕のノート。