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ココナッツとライフスタイル

スリランカに来た理由の一つ、Sunshinestories。

http://sunshinestories.com

とてもかっこいいホームページとインスタグラムを持っているのだが、いかんせん宿に来る前の「情報」が少なかった。何を大事にしてるのか、どんなストーリーが背景にあるのか。こういうコアな部分はウェブにしては読み応えがありすぎるほどに記載されている一方、部屋の様子がわかる写真もなければ、住所も載っていない。「Surf & Yoga Retreat」とは謳っているものの、どんなプログラムで日々過ごすのかという、実際にSunshinestoriesで起きるであろう出来事を想像するための情報が見当たらない。

きっとみんな「なんとなく」でここまで足を運んできたのだろう。スリランカの南端まで、なんとなく。なんかわからないけど、とにかく気持ち良さそうだから、なんとなく。今回の滞在を共にした13人中、12人がインスタグラムに惹かれてここまでやって来ていた。皆口々に話す。

「ずっとインスタをフォローしていて、ここに来ることが夢だった。」

そのインスタグラムには、ほとんど宿の様子はアップされていない。だいたいサーフィン、ヨガ、ヤシの木、海、スタッフの笑顔。今いる場所とは違う土地での、違う生活の香り。


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最近、「ライフスタイルホテル」という言葉をよく雑誌やウェブで目にするようになった。しかし、私にはそれが何を指しているのかよくわからなかった。地元の人たちとアメニティをコラボしたらライフスタイルになるのか。泊まっている人に加えて、地域に住む人々が訪れることができるラウンジが付いているとライフスタイルホテルと掲げられるのか。それとも、デザインが新しいことに対して、便宜的にそう呼んでいるのか。

日本にありがちなことかもしれないが、「エコ」といった言葉と同様「ライフスタイル」という単語にもどこか率直に信用できない、商業的な匂いが染み付いてきたように感じる。

だが、この違和感をそのままにこの魅力的な単語を捨てるのではなく、私なりに「ライフスタイルホテル」というものについて考えてみたいと思う。

8年間ホステル、ゲストハウスという宿泊業に携わってきて思うこと。それは宿泊業の「便利」さ。

宿をやっていると、泊まりに来てくれた世界中の人々からまとまった時間をもらうことができる。それもレストランやカフェ、映画といった2、3時間という長さではなく、平均で50時間も。

そしてその長い時間の中で、衣食住、あらゆる種類の「新しい生活の仕方」を提案することができる。

泊まる側からすれば、手軽に今までとは違った生活、しいては生き方を体験することができるということ。引っ越しや模様替え、雑貨の買い直し等、自分が慣れ親しんだ生活の形を変えるのはなかなかお金と労力がかかることだだけれど、ホテルに行くとそれが全て揃う。時間の使い方もそう。普段は忙しくてついコンビニで済ましてしまうコーヒー。それを顔が見える誰かが想いをこめて淹れてくれたコーヒーに変えてみる。今までに繰り返してきた生活とは違った「誰かの価値観を基本に構成された生活」。

出張や旅行の際の「寝る場所」としてのホテル。美しい自然に触れ、ゆっくりとした時間を過ごす「リゾート」としてのホテル。絵や写真、置物を味わう「アート」としてのホテル。

ホテルと一言でいっても、様々なホテルのあり方が存在する。

そんな数あるホテルの中でも、「新しい生活の仕方を提案するために作られた」ものを、ライフスタイルホテルと呼ぶべきではないだろうか。これならばわかりやすいし、そしてかつ、魅力的だと思う。

非日常の経験という一瞬の輝きや息抜きで終わるのではなく、泊まった経験がその人の生活の仕方を変えてしまうようなホテル。

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さて、話を南国の島に戻します。

ここSunshinestoriesに来て感じたこと。それはまさにこの土地、この宿に根付く生活の仕方、ライフスタイルだった。そしてここを訪れる人はみな、インスタグラムやウェブから感じる、その「スタイル」に惹かれている。

朝日と共に起き、ヨガで身体を覚まし、海に遊ぶ。野菜を多く食べ、酒を飲まず、世界中の様々な人々と笑顔で挨拶を交わす。

これがいわゆるプロモーションっぽい、商業的な匂いを放たないのはきっと「この宿で働くスタッフがまさに、そのライフスタイルの中で生活している」からだと思う。ここがきっと、とても重要。

実際にここで働き、日々を暮らすスタッフたち。マニュアルに書かれた通りにやるわけでも、自己顕示欲的または商業宣伝的に何かを誇示するわけでもない。ただ、自分が良いと信じて過ごしている生活の形。生き方がここにある。

↑Sunshinestoriesのスケジュール表。このメニューに限らず、自分が別なことをしたければ自由に動いていい。時間やメニューに縛られるのが苦手な私にとっては、この緩さがちょうど良かった。


↑朝ごはんは決まってバナナ、スイカ、パッションフルーツ、マンゴー、ヨーグルトの組み合わせ。朝のフルーツは金!とはよく言ったものだ。心なしか体が軽い気がする。冷たいココナッツウォーターはいつでも無料。


↑仕事のちょっとした合間を見つけてはサーフボードを持ち出して、海に出かけるスタッフ。音のいいクラブも無いし、洗練されたレストランもない。けれど、時間と心に余裕があり、自然の美しさを近くに感じることができる暮らし。


Sunshinestoriesでの最終日。皆からのフィードバックが欲しいとスタッフから渡されたアンケートの最後の項目。

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Was your experience with us life changing? Are you stoked?

「この宿で過ごした日々が、あなたの生活を変えるキッカケになりましたか?」

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出張や観光の拠点でもなく、息抜きのリゾートやデザイナーズでもない。ここは南国の地、人里離れた海辺での静かで豊かな生活を垣間見ることができる、まさにライフスタイルを提案する宿であった。

↑Sunshinestoriesのオーナー。スウェーデン出身。それにしてもちょっとかっこよ過ぎませんか。

ホテルの未来を考える。toco./Nui./Len/CITANを手がけるBackpackers' Japan代表、本間貴裕のノート。