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Geoffrey Bawaを訪ねて

建築家Geoffrey Bawaの作品を感じたくて、スリランカはコロンボへ。

首都コロンボは、着いてみると意外と都会だった。スリランカといえば湿った熱帯雨林と開けた蒼い海のイメージ。しかしこの国の車の99%が日本から来ているということもあってか、日本の高速道路を走っているようだった。ランドクルーザーにレクサス、プリウス、ワゴンR!の間をすり抜けるたくさんのtuktuk。

そんな喧騒から少し離れて路地を入ったところにNo.11はひっそりと佇んでいる。これが、もともとのコロンボの姿なんですね、きっと。

「No.11」

三軒の長屋を改装し、バワが自邸として使用していた白い2階建の建物。

しんとした静寂の中、鳥の鳴き声が時折響く。

メールで事前に予約を入れておかないと中を見せてもらえないことを当日の朝知り慌てて連絡をとったら、一言「Please come.」と返ってきた。シンプル過ぎるであろう返事とはうって変わって、笑顔で迎えてくれたジェフェリーバワ事務所の方々。

入ってまず目に飛び込んでくるのは立派なロールスロイスと、その後ろにかけられた色彩豊かな絵画。

玄関を抜け、光が差し込む白い回廊へ。感情が泡立つ。鳥肌が立つ。

静かなのに鳥の声が賑やかで、整えられた直線の中に時折見える曲線が優しい。端正の中に姿をあらわす遊び心。有機物と無機物のバランス。矛盾するもの同士を内包したものこそが優れているものだと、誰かが言ってたことを思い出す。

建物のそこかしこの天井が、空に向かって開けている。

この天窓(といってもガラスがないからなんて呼ぶのだろう)から室内にまで光が降り注ぎ、風が抜け、そして雨の日にはそう、雨も降る。植物を潤す。

空から降ってくる雨とジョウロであげる水とでは、含まれる栄養素が違うそうだ。頭でなんとなくそう感じてはいたけれど、少し前にそう教えられて改めて私ははっとした。植物たちは水を吸っているだけではなく、酸素を初めとした様々な栄養素を雨から吸収している。

土と、光と、風も然り。

自分たちの宿のラウンジを、そして部屋の中を、自然に近い空間にしたい。きっとそのほうが人はリラックスできるし、過ごしていて気持ちが良いだろうから。宿が良ければ、その旅はきっと良い旅になると信じている。

けれど、そんな空間を作るためにただ「観葉植物を置く」というのは少しイージー過ぎる気がするし、何よりも、言ってしまえば自分勝手な傲慢である気がしてスッキリできないでいた。本来ならば吹き抜ける風の中、サンサンと照りつける太陽の下ですくすくと育つ人たち。空からの雨と様々な虫たちが生きる大地から栄養を吸収して、大きくなる人たち。そんな緑たちを、小さな鉢にいれて部屋の中に持ってきてしまったら。それが自分だったら、悲しくなる。おいおい自由にさせてくれよ、放っておいてくれよ、となってしまう。たぶん。

けれどここは違った。見るからに緑が活き活きしている。それはそう。ここには光も、風も、雨もある。

植物と同じで人間だって、自然から栄養をもらって生きている。雨とジョウロの水が異なるように、太陽とLEDの光は当たり前に違うもの。「アウトドア」と気張らなくても、家の中で自然を感じながら暮らしていきたい。

美しく、優しさに溢れる空間。

初めて、建築で感動した日。

***

最後に少し説明を。

今から約1年前。「実はもう、ゴールの先にいるんじゃないか」という考えが頭をよぎった。

二十歳の頃にオーストラリアを旅した時の衝撃。様々な国の人たちが集い、話し、笑い、時に夢を語り合うあの空間。ゲストハウスという文化を日本に広めたいと、会社を興した。それから8年の時が経つ。

東京と京都にしかまだ宿を出せてないものの、日本を見渡すと本当にゲストハウス、ホステルが増えたと思う。中には、様々な旅人達が集えるかっこいいラウンジが付いたものもたくさん。

そう、いまやゲストハウス文化は広まった。がむしゃらに走り続けていて、ふと顔を上げたら、私たちは最初に描いたゴールの先にいた。

さて、次はどこに行こうかと。まだ私は32歳。きっと今から本気で描くものは、なんだって作れるはず。そして同時に、今から描くものは、人生を賭けて追うものにしたい。

そんな風に考えてたどり着いたキーワードは「自然と文化」。地球という自然と共に暮らし、多文化という多様性の中に生きる。私たちが向かう未来はそうあって欲しいという私の勝手な希望。

この希望をより鮮明に描くため、旅を通し、改めて世界を見て周ることにした。

少し先の未来に向けた備忘録、そして今の世界の断片を映す純粋な旅の記録として、これから私が見た世界の姿を、写真と文章に纏めていこうと思う。

拙い文章ですが、お付き合いください。


2018.2.10  本間 貴裕


ホテルの未来を考える。toco./Nui./Len/CITANを手がけるBackpackers' Japan代表、本間貴裕のノート。