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tha BOSS、 Mummy-D、そして坂本龍一。

tha BOSS
『IN THE NAME OF HIPHOP Ⅱ』


 THA BLUE HERBのtha BOSSのソロ第2作。
 収録曲「STARTING OVER feat.Mummy-D」が大きな話題を呼んでいる。ヒップホップ好きの間では知られたエピソードだが、tha BOSSとRHYMESTERのMummy-Dは、ある勘違いから、グループのアルバム曲で、互いを罵り合った。その両者が共作したのである。
 仲違いの発端は20世紀末、日本語ヒップホップ黎明期にまで遡る。かたや札幌を拠点とする北の雄、かたやスチャダラパーに次ぐネームバリューを有する売れっ子。立場の違いもあり、敬意が闘いに転じた。
 悪しき伝統だが、ヒップホップにはラップで「やり合う」ことがあり、海の向こうの銃社会では命を落としたラッパーもいる。
 ラッパーは命を削って言葉を紡ぐ私小説家であり、だからこそ誇りの小競り合いにもなる。それがアインデンティティの証明でもある。和解が楽曲化されることは、あまりない。
 対話形式で紡がれるこの曲は、哲学的なtha BOSSとエモーショナルなMummy-Dが、それぞれの持ち味は一歩も譲らず、しかし同じ主題を共有することで、音楽的接近を創り上げている。ベテランならではの熟成の旨味、歯応えのある郷愁を散りばめながら、何よりも「いまここ」に焦点を合わせ、ヒップホップとは何かを問う。そうして冷静と情熱がマリアージュする。
 偶然にもバックトラックでサンプリングされているのは坂本龍一。先頃逝去した音楽家が、この二人に握手させたような錯覚に涙している。
 

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