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あなたの「素地」をひきだすうた。

SMAP

『SMAP AID』

 十五年ほど音楽原稿を書かせていただいている。その間SMAPについては、例外的に定点観測してきた。彼らは地震のオウムの一九九五年、この国で暮らす民に「たぶんオーライ」と語りかけ、「しようよ」と提唱した。誰にでも届く言葉で。SMAPは、世紀末日本において、紛れもなくひとつの思想だった。

 その翌年、五人体制になったSMAPは試行錯誤を重ねながら、やがて国民的歌手へと変貌していく。しかし、その過程で生み出された幾つかの「名曲」にはもはや、かつてのように時代心理を映し出す反射板としての輝きは見当たらない。そう思っていた。

 そんなSMAPが3・11の年に「担ぎ出された」。本アルバムは彼らの曲に「勇気づけられた」聴衆の人気投票によって選ばれた十五曲を収録。当然のように売り上げの一部は義援金に当てられる。

 十五位からのカウントダウン形式。したがって曲順はバラバラで統一性がない。たとえば「This is love」(二〇一〇)のあとに「がんばりましょう」(一九九四)が流れたりする。ところが違和感は不在だ。通底しているのは「体温の低さ」。クールなのではない。うたが「汗」をかいていないのだ。基本的に歌い上げることがない。よって歌唱はいつも下を向いている。曲に歌詞をのせるというより、サウンドをバックにリリック(その色彩はきわめて口語的である)をつぶやいているといっていい。だが、ラップのように韻を踏むことはない。SMAPのうたの美徳は、何事にもデフォルメを施さない点にある。言ってみれば、地べたすれすれの低空飛行。だから彼らのうたは大衆を「勇気づける」というよりは、ひとそれぞれに備わっている「素地」を引き出す力たりえている。カウンセリングにも似たその「効能」は未だ有効だ。二〇一一年を受けとめる新曲の登場が待たれる。

(2011.9.16)

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