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美味しくて、圧倒しないもの。

手塚治虫がさ、漫画を描くなら、漫画だけ読んでちゃダメだよ、映画も観なきゃ、って言ったから、トキワ荘のひとびとは、映画をたくさん観るようになった、と赤塚不二夫にインタビューしたとき、教えてくれた。

淀川長治がさ、映画について語りたいなら、映画だけ観てちゃダメだよ、たとえばバレエや歌舞伎も観なきゃ、って言ってたのを、聴いたことがある。

だから、というわけじゃないが、バレエに入れ込んだ時期もあったし、能と狂言に夢中になったシーズンもあったし、数年前までは落語に通ったりもしていた。ざんねんながら歌舞伎はスルーしちゃったし、漫画は仕事がからまなきゃまったく読まなくなっちゃったけど。

で、なにが言いたいかというと。

ひとは、美味しいものを食べたほうがいいということ。
あと、アルコールが体質的にオッケーなら、美味しいお酒も飲んだほうがいいということ。

ほんとうに、美味しいものや、美味しいお酒は、ひとを、圧倒しない。
超絶的な美味しさになぎ倒される快感もたしかにあるけど、ほんとうの美味しさって、決して、ぼくたちを蹴散らしたりはしない。

ひとつのジャンルのなかにいると、圧倒的なものばかりに向かってしまう。
もちろん、すごいものは、どうしようもなく、すごい。
だけど、美、ってそれだけじゃない。

だれかを圧倒したりしない、すばらしさ、やさしさ。
そうしたものにふれると、なれる、なれないはともかく、そんなふうになってみたいと思うことができる。

ある特定のジャンルに詳しくても、一歩、そこから外に出れば、ぼくたちはみんな初心者だ。
でも、ビギナーにやさしいすばらしい作品(食べものも、飲みものも、作品だと思う)はたくさんあって、それらには、圧倒とは違う美がそなわっている。

圧倒しないという表現の大切さを、いま、あらためて噛みしめている。

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