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意味を意味として。無意味を無意味として。『大豆田とわ子と三人の元夫』の主題歌たち。

『Presence』STUTS&松たか子with3exes


松たか子主演の連続ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」の主題歌全5ヴァージョンを中心としたアルバム。この5ヴァージョンは、放映時エンドクレジットですべて流れたが、ドラマと主題歌の関係性を拡張する意味で画期的なことだった。
 トラックのアレンジは変わらないが、ヴァージョンごとに異なるラッパーが加わり、趣の違うライムを披露する。そのことによって、松たか子による歌の部分も変容して、音楽世界が拡がりを見せる。このことが、本編で描かれたヒロインと三人の元夫との秀逸なやりとりや離婚した男女の継続のありようとリンクし、イメージに留まらない多彩で有機的なスケッチとなった。
 ラッパーの持ち味は発揮されているが、それ以上にそれぞれの解釈が素晴らしい。ドラマの台詞を引用したり、別な言葉に置き換えたり、独自の方法で統合したり。まさに、サンプリング、カットアップ、リミックス。ヒップホップ音楽の三元素が意外なかたちで体感できる。そのうち3ヴァージョンではドラマで元夫を演じた岡田将生、角田晃弘、松田龍平もラップに加わる。各自、自身が演じたキャラクターを踏まえた「客演」となっており、フィーチャリングの意味が万華鏡のように花ひらく。
 フィクション、現実、アート、演技、代替、仮託……ヒップホップはそのすべてを抱擁する音楽だが、それは多様性を肯定する懐深さでもある。その姿勢は、意味を意味として、無意味を無意味として、すべてを大切に紡ぐ本ドラマのスタイルにも重なりなう。リスペクト精神がやわらく波打つ心地よいアルバム。

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