【短編小説】徒労の人 ~なぜ書くのか~ 第7話
第7話
「ほら、なにぼんやりしてんだい」
鋭い声に、一瞬にして夢想が弾けた。手にしていた算盤が銭桝にぶつかり、音を立てる。
帳場格子の向こう側に、額に汗をにじませた母の姿があった。その横には、小上がりに置かれた背負子が見える。
母が戻ったことにちっとも気づかなかった。慌てて駆け寄り、小上がりに腰かけて手のひらで顔を扇いでいる母の横で、背負子から次々と本を出していく。
「お母ちゃん、これどうだった」
腕に抱えていた中から、一冊を手にして母に向けた。あねさんか